心に残る特別な「何か」

「何年たってもあの旅のあの場所が忘れられない」「あの場所を思い出すと胸がいっぱいになる」みなさんには、そんな旅の思い出の場所がありますか?私の場合、遺跡でも自然でも町でも、それ自体に加えて「何か」があったところが、特別の思い出の場所になっています。逆にその「何か」がないと、どんなに有名な見どころであっても感動とまではいかず、「なるほど、これね」で終わってしまうこともあります。たとえばペルーのマチュピチュは、残念なことにあまり琴線に触れなかった場所でした。心に残る「何か」とはどんなものでしょう。

いつまでも記憶に残る、旅の思い出の場所ってどんなところ? いつまでも記憶に残る、旅の思い出の場所ってどんなところ?

出合いのドラマ性

ずっと訪れたかったカンボジアのアンコールワット遺跡に、早朝夜明け前に入り、まだ薄暗い中、日の出を待っていました。やがて夜が明けて、塔のシルエットが浮かび上がってきたとき、空の色とのコントラストに鳥肌が立ちました。その光景は、しばらくは何を見てもあまり感動できなかったほど心に残りました。イランのバムは、予備知識があまりないまま訪れた、城塞都市が廃墟になった遺跡です。廃墟に入ったとたん砂嵐に遭い、世界が濃いベージュ色に包まれたとき、「今、自分はすごいところにいるぞ」とゾクゾクしました。その場所とどう出合うか、シチュエーションは大事なポイントだと思います。

人の情けは心に沁みる

パキスタンのラホールで、立ち飲みジュース屋に寄ったときのこと。1杯飲んでお金を払おうとしたら、「お前の分はさっきここで飲んでた男が払っていったよ」と言われてビックリしました。その男性とは挨拶を交わしただけだったのですから。タイのバンコクの市バスでは、乗るバスを間違えて慌てていた私に、横の席にいたおばあさんが「あそこで○番に乗り換えなさい。これを使いなさい」と言ってバス代をくれようとしました。お金は十分にあると辞退しても、10バーツ(30円)をぎゅっと握らせるのです。そのときは盗難に遭った後だったので、おばあさんの情けに涙が出ました。どちらの出来事も、思い出すと今でも胸が熱くなります。

思い出を10割増しにする恋心

忘れられない場所には、その場所が持つ魅力のほかに、そこで出会った人の思い出も含まれます。誰かに恋をした場所は、そうそう忘れられるものではありません。惚れた相手は現地の人かもしれないし、同じ旅人かもしれませんね。私は昔、チベットで知り合った写真家の取材について歩くうちに、その人に惚れてしまったことがあります。その街を思い出すときはいつも、その人と歩いた道や話したことまで鮮やかに思い出します。誰かに惚れるとまではいかなくても、いい男いい女の多い町も、いつまでも心に残っているものですよね。