上海の老舗ラーメン店は、立って待つべし

その店は、上海の中心部南京東路から福建中路を北へ向かった、問屋街の中にあります。車やバイクが行き交い、少々埃っぽいところです。金色の看板は新しめで、真っ赤な文字で『徳興麺館』と書いてあります。創立は1878(明治11)年という古さ。ということは、つまりその後の日本租界ができた頃にもあったはずで、魯迅や谷崎潤一郎なども食べたかもしれない店なのでした。左側では麺をゆでたり、作業をしています。右側の店内は狭く、小さなテーブルと小さな椅子に腰かけて、お客がラーメンをすすっています。それを見ながら、ゴクリとつばを飲み込んで、立って待つのです。

明治11年創業の老舗のラーメン店 明治11年創業の老舗のラーメン店

言葉のわからない海外で、食べたいものを注文するには?

僕と妻の順番がやってきました。メニューはありますが、前の座席で食べていた人の丼を指差して、同じもの注文します。まるで子供と同じような仕草ですが、言葉の通じない海外で、店で食事をするときに、これほど正確に、おいしそうなもの食べられる方法はないでしょう。白い調理服を着た店員さんが、メニューを指差して教えてくれます。頼んだのは「モンテイ二鮮麺」。お客は食べ終わるとさっさと席を立ち、店を出ていきます。それでもちょうどお昼頃とあって、テーブルとテーブルの間に続々と立ち人が現れます。しかも全員無口です。おしゃべりしながら食べている人など一人もいません。家族連れでさえ無言です。なんだか日本の気合の入った修行道場のようなラーメン屋さんを思い起こします。さてどんなラーメンが運ばれてくるのでしょうか。

誰もが完食しています。 誰もが完食しています。

な、な、なんと、これは? 初めての具材にビックリ!

さほど待つこともなく「モンテイ二鮮麺」が運ばれてきました。濃いめの醤油ラーメンで、上には豚のもも肉の厚切りと、魚の唐揚げが載せられています。スープは澄んでおり、雑味がなく、見た目よりよりあっさりしています。百年以上の歴史の中で、要らない物をそぎ落としてきた洗練された風格さえ感じます。肉は醤油煮込みでしょう。煮過ぎておらす、肉自体の輪郭がはっきりしています。麺は細めで感触が素麺に近いのは中国ならでは。日本ではこうした麺にはお目にかかれません。そして魚の唐揚げです。これが抜群のうまさです。スープと実によく合う。白身魚です。上海は昔から鱸(すずき)で有名ですが、身がホロホロとして、皮が分厚いのは、鯉ではないかと僕は見ました。もし鯉だとすれば、いや鯉でなくても、魚の唐揚げラーメンは、初めてで、しかも唸るほどの逸品でした。なるほどみんなが黙って、ラーメンに集中するわけですね。

このラーメンは、無言でガツガツ食したい このラーメンは、無言でガツガツ食したい