本のコピーを膝に広げて出発進行!

『香港路線バスの旅(小柳淳/TOKIMEKIパブリッシング[角川グループパブリッシング]/2009年)』をバイブルにして香港へ旅立ち、まずは新界の北端にある香港湿地公園というところへ行ってみました。始発のバスターミナルは金鐘(アドミラルティ)、そこから967番の2階建てバスで向かいます。2階の最前列へと駆け上がり(特等席ですが2階席は乗り過ごしやすいので注意しましょう)、膝に本のコピーを広げてスタート。発車直後から、本の描写のすばらしさをコピー片手に味わいます。「バスはスピードを上げ、風の音と微かな振動が心地よく身体に伝わってくる。片側三車線の広々としたハイウェイを流れるように快走していると、右側の九龍に続く雑多なビル群が飛ぶように後方へ消えてゆく。街の風貌が変化してゆくことを捉える間もない。(同書より)」

香港への愛がたっぷりあふれる本『香港 路線バスの旅』をバイブルにして旅立つ!(その2) 香港への愛がたっぷりあふれる本『香港 路線バスの旅』をバイブルにして旅立つ!(その2)

ただの香港が、ただの香港ではなくなる瞬間

名文を読んでは顔を上げて現在の位置を確認。実際は、この文章ほどステキな旅ではないのです。いつものように、空気が悪くてがたついて、エンジン音の唸る香港バスなんですよ。“広々”というほど道路は広くないし、“ビル群が飛ぶように消えていく”というのもおおげさ。それでも、こんな名文をお供にすれば、車窓の景色が光り輝いて見えるのです! この名文は、渋い声のラジオDJやお気に入りのジャズみたい。ふだん走り慣れている道が、かっこいい音楽をかけるとかっこいいドライブに変わったように感じてしまうのと同じ効果があるのです。

想像とちがう風景でもやっぱり興奮!

とくに、汀九橋という斜張橋の描写と、3.8kmある大かくトンネルを抜けたあとの自然の変化に驚く場面は出色でした。「繊細なくらい薄い路面を持つ美しい斜張橋の汀九橋を渡る。斜め平行に張られたワイヤーがキラキラと後方へ飛んでゆく(同書より)」。うっとりしつつ、何度も読み返した箇所です。橋を渡りながら“キラキラと後方へ飛んでゆく”ワイヤーを青空の下で見ることを夢想していたのに、ここを通過したときはあいにく大雨になっていました。けれども、黒々としたワイヤーはまるで空からたたきつけてくる雨の筋であるかのような禍々しい迫力があり、想像とは正反対の光景に胸が躍り、夢中でシャッターを切り続けたのです。(その3に続く)