名文に感動しつつも、しっかり風景を確認する!

汀九橋を渡って新界へ入り、北上を続けて大かくトンネルを通過しました。ここの描写は簡潔ながらもその観察眼はあっぱれです。「三.八キロもの長いトンネルを抜けると風景は一変する。低い山と平野が緩やかに続き、緑は少なく荒々しい茶色の地肌が露出した世界に唐突に入ってしまったようだ。(『香港路線バスの旅(小柳淳/TOKIMEKIパブリッシング[角川グループパブリッシング]/2009年)』より引用)」たったこれだけの短い描写ですが、すでに暗記するほどページを読み込んでいた私は、「本当だろうか? トンネルを抜けると、そんなにドラマチックに山の景色が変わるのか?」と興味津々でした。そして実際に目にしてみると……たしかに、周囲の自然はこのとおりに変化していました。

香港への愛がたっぷりあふれる本『香港 路線バスの旅』をバイブルにして旅立つ!(その3) 香港への愛がたっぷりあふれる本『香港 路線バスの旅』をバイブルにして旅立つ!(その3)

この本のおかげで風景を捉えることができました

しかし、よほど注意深く見ていなければ、ふつうの旅行者にはまずこの変化には気づかないだろうとも思いました。筆者は、このバスに何度も乗り、何度も風景を確認してはこの文章を書きつづったのでしょう。文才もさることながら、その粘り強い調査力に感じ入りました。もしも私が香港の路線バスを自力で乗りこなせたとしても、この本がなかったら、ただただ漫然とバスに乗っているだけの乗客だったことでしょう。バスを交通手段の一つとしてしか捉えず、自然の微妙な変化などに目を向けようとも思わない人がほとんどですよね。私もご多分に漏れず、山の風景がたしかに目に入っているにもかかわらず、単に目の横を飛び去っていく景色としてしか映っていなかったにちがいありません。

香港路線バスを乗りこなすのに忘れてはいけないこととは?

この本に出会い、書いてあるルートと寸分違わぬ旅をしてみて、初めてさまざまなものが見えました。著者の香港と路線バスへのあふれる愛情を感じ、今までの旅行では気づかなかった香港に触れることができたのです。本のコピーを膝に置いて、読んでは目を上げて車窓を確認するなんて、ちょっとマニアックな旅人みたいですが、こういう楽しみ方もあるんですね。けれども、情けないことに初歩的な失敗談も……。2階建てバスの最前列で、すごいすごいと風景描写に感心しているうち、目的地を乗り過ごし、終点のターミナルまで行ってしまったのです。香港2階建てバスの初心者がしばしばやってしまう、典型的な失敗です。もしあなたも、私と同じように『香港路線バスの旅』をバイブルにして旅立とうと思ったら、くれぐれも2階建てバスの最前列には注意してくださいね!