中に入ると、気分は『スタートレック』?

その、謎の宇宙生物の体内に入るような気持ちで、ビルの中に入ってみます。内部は一転、無機質で未来的です。デザイン科の学生さんによる展示会が開かれていて、ここが大学だったことを思い出します。けれども、ひと気のない廊下はまるで宇宙船さながら。歩いていると、SF映画の登場人物になったような気分です。内部は宇宙船のような静謐さを湛え、外観は意志を持ち増殖する生命体のように有機的。こんな建築体験は生まれて初めてでした。これはいくら写真で見ていても、実際に訪れて歩いてみないことには、実感できないものですよね。

宇宙船のような建物の中 宇宙船のような建物の中

周囲の景観との落差が、建築美を引き立てる

キャンパスへ来てみて初めて気づいたことが、もう一つありました。それは、このイノベーション・タワー以外のキャンパス内の建築が、すべて同じ色の部材を使っているということです。それは来てすぐにわかっていたことですが、ことザハ建築との対比という点で改めて見直してみると、ザハ建築を引き立たせる効果に驚いたとのです。重厚なレンガ造りの建築群という、徹底的な統一感があるからこそ、ザハ建築の破調の美が際立つのでした。

飽くことなくシャッターを切り続けてしまいます

イノベーション・タワーを後にし、またキャンパスをホンハム駅に向かって戻りながら、「結局、ザハ建築の魅力ってなんだろう」と考えていました。たとえば写真に収めようとして、建物の一部分、ほんの一箇所だけを切り取っても、すべてがフォトジェニックで、ザハならではのオリジナリティーを発揮してくれます。しかし同時に、いくら撮っても、トータルの非凡さをまったく伝えきれないのです。誰にでもつかまえられそうで決してつかまらない、まさしくザハ建築は怪物だと感じました。

建築がアートだということを思い知る!

その怪物ぶりは諸外国でも知れ渡っています。日本の新国立競技場での例もしかり、彼女の向かうところはどこでも、賞賛と非難の議論が巻き起こるのです。企画倒れとなる案件も山ほど。やはり建設にも維持にも相当のコストが必要ですし、周囲の景観との調和といった問題も高いハードルでしょう。しかし、香港を訪れてみての実感は、やはりザハ・ハディドは驚嘆に価する第一級のアーティストだということです。あの桁外れの奔放さを体験したいと思ったら、ぜひ香港理工大学へ行ってみましょう。香港の中心部に出現する驚きの異空間に、しばし現実感を見失うことでしょう。