記憶からよみがえった「壁画の村」

昔々、10年以上前のことです。テレビの紀行番組で、ネパールのインドとの国境一帯の村では、女性たちが家の壁に絵を描く風習がある、というシーンを見ました。「へえー、いつかこの村に行ってみたいなあ」と思いつつ、詳しく調べるでもなく、いつの間にかその村のことは忘れてしまいました。それから時が経ち、5年前にある1冊の本に出合ったことで、その「女性が家の壁に壁画を描く村」の存在を思い出し、猛烈に、その村に行って絵を見たくなったのです。

インドのトライバルアート 女性が家の壁に描く壁画「ミティラー画」の村を訪ねて(前編) インドのトライバルアート 女性が家の壁に描く壁画「ミティラー画」の村を訪ねて(前編)

バックパッカーのさきがけに導かれ

その本は、蔵前仁一という人が書いた『わけいっても、わけいっても、インド』という、インドのトライバルアート(先住民族、少数民族のアート)を求めてインドの辺境の地を旅する紀行本です。蔵前仁一さんは、いわゆるバックパッカーのさきがけのような人で、彼のデビュー作『ゴーゴー・インド』は、30年近く前、当時インド関係の本といえば学術的な研究書か精神世界を書いたものばかりだった時代に、リアルなインドの旅の面白さを書いた画期的な一冊で、大いに衝撃を受けたものでした。

ひとりの画家の作品に心を奪われる

蔵前さんは、インドの北東に位置するビハール州のミティラー地方を訪ね、そこでひとりの老人の画家に出会います。もともとは3000年に渡って母から娘に受け継がれてきた壁画だった「ミティラー画」ですが、やがて紙に描かれるようになると、商品化され、画家が生まれ、中にはインドの都市部や欧米の画廊で高値で絵が売られるような画家も現れました。蔵前さんが偶然出会った老人もその一人で、蔵前さんはその絵が非常に気に入り、老人の手元にあった作品をすべて買ったと本に書いてありました。そして、本に載っていたその絵が本当に素晴らしく、私もどうしても欲しくなったのです。

いよいよその時が来た!

2012年の冬、久しぶりにインドに行くことになりました。その旅の目的は、ブッダガヤで執り行われるダライ・ラマの法要に参加することだったのですが、ミティラー画の村、ジトワルプルもブッダガヤと同じビハール州にあります。ブッダガヤを拠点にすれば、ジトワルプルにも行けるのではないかと考えました。アクセスなどの情報は全くなかったのですが、ブッダガヤでの宿泊先がインド人と日本人のご夫婦がやっているゲストハウスだったので、そこで何か情報が得られるだろうと思い、インドに向かったのでした。(中編に続く)