3000年の歴史を持つミティラー画

インドのミティラー地方とネパールのジャナクプル地方で3000年に渡って受け継がれてきた「ミティラー画」は、もともとは作物の豊穣や、誕生や結婚など家族の幸せを祈って、女性たちによって描かれてきた壁画や床絵でした。お祭りや儀礼のたびに、太陽や月、ヒンドゥーの神々や、吉祥と豊穣のシンボルが、素朴な家の壁を飾るかのように描かれました。今もジトワルプルの家々の壁には、カラフルな色でヒンドゥーの神様が描かれています。小さな村を歩いていると、あちこちの家に招かれ、その家の壁画を見せてくれます。家によってモチーフもタッチも違うのが、見ていて面白かったです。

インドのトライバルアート 女性が家の壁に描く壁画「ミティラー画」の村を訪ねて(後編) インドのトライバルアート 女性が家の壁に描く壁画「ミティラー画」の村を訪ねて(後編)

偶然の出会いと貴重な一枚

途中からずっと村を案内してくれる青年がいました。彼は英語が話せ、ミティラー画を勉強しているところだと言いつつも、別に自分の絵を売り込んでくるわけでもありません。私がこの村に来るきっかけになった本『わけいっても、わけいっても、インド』を見せると、ひとつの絵を見て「あ、これは僕のおかあさんの絵だ」というのでこちらもビックリ。有名な画家だった彼のおかあさんは7年前に亡くなり、彼の手元にはおかあさんの絵が二枚だけ残っているというので、ドキドキしながら見せてもらいました。とても気に入った一枚を青年から譲ってもらうことができたのはラッキーでした。

とうとうあの先生に会えた!

青年に、その本で私が欲しかった絵の先生を知っているかと尋ねると、なんと知り合いだといい、先生の家まで案内してくれました。手元にある絵をすべて持ってきて見せてもらうと、これが本当に素晴らしいのです。ヒンドゥー教をテーマにした伝統的なミティラー画とはだいぶ作風が違うのですが、村で見てきた絵とは比べ物にならない丁寧で緻密でどこか温かい絵ばかりでした。お財布が許せばすべて買いたかったのですが、長い時間吟味して、その中から二枚だけ選びました。「いつまでもお元気で、素晴らしい絵を描き続けてください」と先生に告げ、青年にお礼を言って村を後にしました。

ミティラー画を見ながら次の旅を思う

こうして、10年以上前にテレビの番組を見てその存在を知り、一冊の本によって絶対に行くぞと夢見たミティラー画の村にとうとう行くことができました。テレビで見た風景や、本で読んだ場所など、その一点を目指して旅するのもまた面白いものです。それがなかなか行きにくい場所だったら、たどり着いたときの感動もひとしおです。額装してリビングに飾ったミティラー画を見ながら、さて次はどこに行こうかと考える毎日。それにつけても、あの先生の絵を二枚しか買ってこなかったことは、いまだに後悔し続けています。