染織天国インド

インドは布好きな人にとってかなり危険な魅力に満ちた国です。広い国土に多くの民族が暮らすインドには、あらゆる染織の技法と素材が揃っており、地方ごと民族ごとに独自のスタイルの布を持っています。しかも恐ろしいことに(笑)、インドの染色に目をつけた外国人が、自国でも流通するようなデザインを作らせるようになり、また、インドでも急増した中流層以上のお金持ちマダムが、上等なあつらえの超高級サリーをポンポン買うようになったことで、洗練された「いいもの」を扱う店がどんどん増えているのです。

工房で、神経を集中させて型を押していく職人たち 工房で、神経を集中させて型を押していく職人たち

イスラム教徒の男性が使う更紗アジュラック

西インドのグジャラート地方は、染織好きにとって垂涎の地です。パキスタンと国境を接する砂漠地帯のカッチ地方では、鮮やかな民族衣装を身にまとった人たちが、伝統的な手工芸の技術を代々受け継いできました。その染織の歴史は、インダス文明の頃まで遡るといいます。アジュラックは、天然染料を用いたブロックプリント(型押し)の更紗で、伝統的にインディゴの藍、インド茜の赤、鉄の黒の3色が用いられてきました。この更紗はムスリム(イスラム教徒)の男性が、ショールとして、持ち運び用の布として、また、ハンモックや礼拝時の敷物として使う布で、型押しされるのはイスラミックな幾何学模様です。

ムンバイでアジュラックの工房を見学

アジュラックを作っているのもムスリムの男性たちです。私はムンバイで、アジュラックのデザイナーの工房を訪ねました。その人はインドのナショナルアウォードを受賞した人で、実はその人の作品を買うために、住所を頼りに訪ねてみたのです。ムスリム地区にある雑居ビルの最上階にあったのは、ショップではなく工房でした。デザイナー氏も、突然バイヤーでもない日本人がやってきて驚いたようでしたが、快く工房の中も見学させてくれました。広い工房では、10人ほどの男の人たちが作業しています。「アジュラックを作るのは昔からムスリムの男性の仕事でした。見ての通り型を押すのは力が要りますからね。きつい仕事です」とオーナーが説明してくれました。

何枚でも欲しくなる、伝統柄と現代柄の作品

台の上に敷かれた無地の長い布の上に、小さな型をずれないように押して、色を重ねていく作業は、まさに熟練の技です。工房を見学した後は、伝統柄だけではなく現代的なデザインの新しいアジュラックの作品を見せてもらって、いくつかお土産に買いました。シックで美しいイスラムの布アジュラックに惚れた私は、アジュラックの本場グジャラートのアーメダバードでも、専門店にてスカーフやメーター売りの布を、またまたたくさん買い込みました。今回は時間がなくて、カッチ地方まで足を延ばすことができませんでしたが、いつかアジュラックの村を訪れたいと思います。布好きのあなた、インドに行く機会があったら是非、アジュラックを探してみてください。