人間の限りない力の結晶「カイラーサナータ寺院」

アジャンタの遺跡が仏教美術の「美」だとするならば、エローラの「カイラーサナータ寺院」は「人間が作った怪物」とでもいえましょうか。石窟寺院というと崖を横から掘って造られた洞窟状ものが一般的ですが、このカイラーサナータ寺院は、もはや石窟ではなく、100年をかけて、岩山の山腹に外部も内部も完璧に仕上げられた大寺院が彫り出された、インド最大の「石彫寺院」なのです。寺院の目の前に立つと、その“ど迫力”に圧倒されます。石を組んだのではなく、この寺院がひとつの石(岩)なんですよ!!外の壁も内部も精緻な彫刻で埋め尽くされていますが、失敗したらどうするんでしょう。エローラの神のような石工たちに心から敬服します。

信仰の力に圧倒されるインドの石窟寺院 その2「エローラ」 信仰の力に圧倒されるインドの石窟寺院 その2「エローラ」

三つの宗教が平和的に共存していた

エローラの石窟寺院群は6〜9世紀に開かれました。全部で34窟の寺院があり、仏教、ヒンドゥー教、ジャイナ教の三つの宗教の寺院が、時代を追って南から北へと、場所を分け合って共存しています。このような宗教の勢力の交代が起きる時、前の宗教の寺院や彫刻を破壊してしまうことがありますが、お互いの宗教がお互いを吸収し合っている関係のためか、エローラの遺跡は、破壊されずに残っているのが特徴です。僧侶や参拝者が去ってジャングルに忘れ去られたアジャンタとは異なり、エローラは今でも、常に巡礼者が絶えない、三つの宗教の聖地となっています。

壁画のアジャンタ VS 彫刻のエローラ

エローラの白眉、カイラーサナータ寺院はヒンドゥー教の寺院のひとつです。シヴァ神を祀り、シヴァ神の住む聖山カイラスをこの世に実現させたのがこの寺院です。ヒンドゥー教の石窟群は、仏教窟が僧侶の修行の場であったのに対し、神々を祀ることを目的に建てられました。この「神々の回廊」に刻まれたヒンドゥーの神々の像は、肉感的で躍動感にあふれ、神でありながらどこか人間臭さが漂っているような気がします。北のはずれにある5窟のジャイナ教寺院も、精緻な彫刻が美しく、34窟の彫刻の密度の濃さはエローラ随一といえます。アジャンタの傑作が壁画なら、エローラは優れた彫刻工芸の極致といえるでしょう。

合わせて訪れたい名砦「ダウラターバード」

エローラ観光の拠点アウランガーバードからエローラに向かう途中にある「ダウラターバード」は、中世インドで最強の要塞で、インド三大砦のひとつとされています。デカン高原の真ん中にある岩山を削って砦にしたもので、エローラの遺跡の陰にかすみがちですが、他の場所にあったらすごい見どころになっただろうと思われる名砦です。エローラのカイラーサナータ寺院もそうですが、万事に大雑把そうに見える(笑)インド人は、実は非常に細かい作業を根気よく続ける人たちなのですね。頂上からのエローラまで見渡せるデカン高原の絶景を是非目に焼きつけてください。