インドのヒマラヤへ

いつかインドのヒマラヤの麓で、小説を書いてみたいと思っていました。季節は夏。夏にインド? と思われるかもしれませんが、ヒマラヤの山麓に行けば、日中でも20℃〜25℃くらいと涼しいのです。その年に目指したのは、わりとメジャーな町マナーリです。デリーからは北に550キロほど、標高2050メートル。満席の深夜バスに揺られて14時間ほどかかりました。町はビーズ川をはさんでVの字型の渓谷の両側にあります。バスを降りたのが西に位置するオールドマナリ。同じバスで来たインド人の家族の多くがこちらに泊まると言っていました。土産物屋などが軒を連ねて、大層な賑わいようです。インド人には、マナーリに来る途中のクルとあわせて、「クル・マナーリ」と呼ばれる避暑地として有名なのです。

ヒンドゥー寺院の温泉施設と修行僧(サドゥー) ヒンドゥー寺院の温泉施設と修行僧(サドゥー)

絶景の仕事場を確保

僕も含めて、外国人に人気なのが、橋を渡った先にあるヴァシシト村です。こちらにはチベット系の人たちも多く暮らしています。狭い道をのっしのしと牛が歩いています。そんな中、手頃なゲストハウスを見つけました。ベランダからは雪を頂いたヒマラヤが見渡せるのです。夏の間、雨は少なく、僕は毎日ベランダにテーブルと椅子を出して、ノートパソコンに向かいました。ふと目を上げると、ヒマラヤの絶景が待っています。涼しいですし、執筆が進みます。昼は近くのチベット料理屋でトゥクパ(ラーメン)やモモ(餃子)、チョウメン(焼きそば)を食べ、また部屋に戻って仕事です。ひと休みする時は、チャイを運んでもらったりしましたが、飛びきりおいしかったのが地元名産のリンゴの生ジュースです。そして夕刻、決まって宿から向かうのが温泉でした。

ゲストハウスのベランダからは雪を頂くヒマラヤが ゲストハウスのベランダからは雪を頂くヒマラヤが

ヒンドゥー寺院に隣接された温泉

温泉は2カ所にありました。1カ所はビジター用の施設で有料です。もう1カ所は、ヒンドゥー寺院に隣接された施設で無料です。僕が毎日通ったのは、もちろん無料のほうです。こういうところで、清潔かどうかを評論するのは具の骨頂でしょう。ここでは心身ともに清めるための沐浴なのです。聖なるガンジス川で、沐浴するのと同じ意味です。少なくとも、バラナシのガンジス川に比べたら、この温泉は段違いにきれいです。湯はかけ流しですしね。体を温め、清めた後で、寺院の中に入ります。修行僧のサドゥーたちが、囲炉裏を囲んで座っています。お布施を置いていくインド人観光客もいます。僕は毎日、彼らにチャイを御馳走になりつつ、瞑想の時間を持ちました。そして心身ともにござっぱりとして、夕食に向かうのでした。滞在期間は2か月、小説は完成し、滞在費も600ドル程度と格安でした。時にはこんな執筆旅行もいいものですよ。