ムンバイの日本人住職に会いに行って

インドのムンバイに、20世紀初頭に創設された日本山妙法寺があります。20年ほど前、インドをあちこち旅行していた私は、ふと思いついてこのお寺に立ち寄ってみました。信心深いわけでもなんでもなく、ただの好奇心と、「日本人と日本語で会話したい」という素朴な里心だけで、電車を乗り継いで訪れたのです。日本山妙法寺は、日本的な懐かしさよりも、やはり異国情緒を感じさせるお寺でした。日本人の住職である森田上人とお話しできました。

ムンバイの日本山妙法寺で、日本食レシピを伝授 ムンバイの日本山妙法寺で、日本食レシピを伝授

気さくなお上人さん

当時、私は長期貧乏旅行者のような風体をしていました。森田上人は、初め、私のことを麻薬目当ての、いわば“ヒッピー”崩れのインド旅行者と思ったようでした。話をするうちに、私が一般的な旅行者であると理解してくださり、それからはすっかり打ち解けてくださいました。しかし森田上人は体調が悪そうで、「私は北海道の出身だから、こういう暑いところは体に合わないんだ。だからインドにいると、すぐに具合が悪くなってしまうんだ。」と、当時でもすでに在印20年くらい経つというのに、ユーモアとも本気ともつかないことをおっしゃっていました。しかし体調が悪いというのは本当のようで、私は「日本食が食べられれば少しは気持ちと胃腸が休まるのかなあ」とぼんやり考えていました。

信者の女性との出会いと、彼女の思い

森田上人は、「そんなわけで、私は具合が悪いからこれにて。信者の人たちが作った食事を食べていきなさい」とおっしゃって、居室へ戻っていかれました。お言葉に甘えて、ベジタリアンのカレーライスをいただきました。そのときにちょうど食事を一緒にいただいたインド人の若い女性と、仏教のことや彼女の出自をあれこれとしゃべりました。彼女はもとはヒンドゥー教徒でしたが、非差別階級の生まれだったため家族で仏教に改宗したとのことで、自分たちを導いてくださった森田上人に深く帰依しているのだと語ってくれました。

信者の女性の思いと、それに応えたいという私の思い

「だから私は、オションニンサン(お上人さん)に喜んでもらえることがしたいのです。あなたはオションニンサン以外で私が初めて会った日本人です。是非、日本食のレシピを教えてください」。眼鏡をかけた真面目そのものな雰囲気の彼女の頼みに応えたくても、思いつくのはインドで手に入れることが難しい食材の料理ばかり。はっと思いついて「ほうれん草のおひたし」と「ほうれん草の胡麻和え」の二品を拙い英文で書きました。調味料の分量など一切記していないお詫びとして、「very easy!」などと励ます言葉を並べて。彼女はレシピを読んで「本当にこれでできるのかな?そもそも、おいしいの?」 と少し不安げな表情を浮かべましたが、森田上人は味より彼女の気持ちを喜んでくれるだろうと想像しながら、帰途につきました。

一期一会の出会いですが

彼女がその後どうしたか知る由もありません。年月は流れ、ネットで見れば森田上人が今もムンバイのお寺の住職だということも知れます。今なら、彼女に日本食レシピをメールで伝えることができるのに。旅の出会いは一期一会ですが、ネット時代になって、“見たこともない料理のレシピを伝える”なんていう難しいことも、写真付きでラクラク送れるようになりましたね!