小説の舞台は、インドのムンバイの老舗カフェ

『シャンタラム』という小説を知っていますか? 2003年に発表され、世界中でベストセラーになったグレゴリー・デイヴィッド・ロバーツの冒険小説です。私がこの小説のことを知ったのは、2007年にインドのムンバイに行ったときのことでした。ムンバイで一番観光客が集まるエリアのコラバ地区に、1871年創業というカフェ&レストラン「レオポルド・カフェ」があります。いつ行っても、世界の旅人が集まっていることで名高い店ですが、その店で知り合ったオーストラリア人旅行者に、「店のカウンターに飾られている、あの本のことを知っているか?」と聞かれたのが、この小説との最初の出合いでした。彼は表紙に『Shantaram』と書かれたそのハードカバーを指差し、「ものすごく面白い小説だよ。オレはあの本を読んでここ、ムンバイに来たんだ。その本の舞台がここなんだよ」と僕に語りました。

ベストセラー「シャンタラム」の舞台になったムンバイのレオポルド・カフェ ベストセラー「シャンタラム」の舞台になったムンバイのレオポルド・カフェ

テロの標的にもなったことも

そのオーストラリア人と話した翌年の2008年、にムンバイで同時多発テロが起き、外国人が多いこのレオポルド・カフェは、テロリストの格好の標的になりました。7人が店内で射殺されたといいます。その翌年の2009年、私は再びレオポルド・カフェを訪れました。店内はまるで変わっておらず、店員も相変わらずの無愛想でしたが、入口にしっかりと金属探知機が置かれるようになっていたのが印象的でした。その後、この『Shantaram』は邦訳されたのですが(2011年に新潮文庫に)、私はすっかりその本のことを忘れていました。そして最近になって思い出し、買って読んだのです。これが実に面白い! 「ハリウッドが争って映画化権を買った」というのも納得です(ジョニー・デップがプロデューサーらしいです)。文庫本で上中下の3巻、1800ページという大作ですが、一気に読みました(といっても長いので1ヵ月かかりましたが…)。

冒険を求めてムンバイを目指す

小説は主人公のリンがムンバイに到着するところから始まります。オーストラリア人のリン(偽名)は、刑務所を脱走して国外逃亡して来たのです。そのリンが最初に身を落ち着けたのが、このコラバ地区。そしてこのレオポルド・カフェで、さまざまな人々と出会います。しかしそれはまだ物語の序の口。やがてスラムに移り住んで医療活動を行ったり、ボンベイ・マフィアの一員となり、ついにはアフガニスタンでゲリラに加わったりと、波瀾万丈の人生を送ります。しかもそれが作者の体験談に基づいているというのがすごい。作者も脱獄してムンバイに逃亡し、この主人公のような生活を送り、その後、逮捕されてオーストラリアで服役中にこの小説を書いたというのです。この長い小説を読み終えて、私はようやく、あのオーストラリア人の青年が、何を求めてムンバイにやって来たかがわかりました。きっと今夜も“冒険心”を求めて、新たな旅行者が“レオポルド”にやって来て、テーブルに座っているのでしょう。あなたもこの小説を読んだら、きっと“レオポルド”に行きたくなるでしょう。