遠藤周作「深い河」の舞台へ

インドの母なる大河ガンガー(ガンジス川)沿いにあるベナレスは、遠藤周作の小説「深い河」の舞台となり、映画のロケ地にもなりました。ガンガーはすべての人間の業を包み込む河として描かれ、この町に来た深い業を持つ5人の登場人物は、それぞれガンガーによって人生の何かを感じることができた、といった話でした。また三島由紀夫は「暁の寺」のなかで、ベナレスを「神聖が極まると共に汚穢も極まった町」「華麗なほど醜い一枚の絨毯」と表現していました。多くの小説家を魅了するベナレスとは、いったいどんな場所なのでしょう。

聖なるガンジス川で朝日に向かって沐浴するベナレスの人々 聖なるガンジス川で朝日に向かって沐浴するベナレスの人々

ヒンドゥー教の聖地

ベナレスはヒンドゥー教の聖地のひとつで、川の左岸(西側)には「ガート」と呼ばれる階段状の沐浴場が60以上あり、夜明け前から巡礼者が沐浴し祈りを捧げる姿が見られます。地方から来た巡礼者は、自分の村の人へのお土産に聖なるガンガーの水を持ち帰ります。また、ベナレスのガンガーで死んだ人は輪廻から解脱できると考えられていて、インド各地からこの地にやってきた、死を待つ人々が過ごす施設もあります。各地から運ばれてきた遺体はガンガーの水に浸された後荼毘に付され、遺体の灰はガンガーに流されます。火葬場のガートはふたつあって、ここでは一日中煙が上がっています。

人間の聖俗入り乱れるところ

このように紹介すると、なんだか恐ろしくて近寄りがたい場所のようですが、実際はもっとカラッとしていて、聖なるものと俗っぽいものがごちゃ混ぜになった場所といえます。火葬場で人が焼かれているのを見ていたことがありますが、ここで焼かれるということは家族にとっても最高の喜びで、湿っぽい悲しい雰囲気はあまり感じられません。火葬ガートの横では、洗濯屋が住民から集めてきたシーツや服を洗っては、ガートいっぱいに干していますし、沐浴ではなく入浴に来てシャンプーをして体を洗っている人もたくさんいます。子供たちは凧揚げをしているし、野良犬は昼寝しているし、何でもありの大らかな場所なのです。

舟に乗って沐浴を見る

ガート沿いにはたくさんのボートが客待ちをしていて、旅行者に声をかけてきます。また、宿泊客用に朝の沐浴見学ツアーを催行するホテルもあります。わたしたち旅行者は、夜明け前にボートに乗って川を下りながら、ガートで沐浴する人々、そしてご来光を見ます。うっすらと靄がかかっているようなベナレスの朝、手漕ぎのボートに乗って静かにガンガーを滑りながら、ガンガーに祈る人たちを見ていると、やはり粛々とした気持ちになります。また、毎晩ダシャーシュワメード・ガートでは「プージャ」と呼ばれる儀礼が執り行われ、若い僧侶がベルを鳴らしながら香炉や燭台を持ってガンガーに祈る姿を見ることができます。