ジャワでは山に“神”が住む

インドネシアはジャワ島の古都ジョグジャカルタ。この都市の北にそびえる標高2911mのムラピ火山は、近年に至るまで噴火を繰り返し、ときには大きな被害をもたらす活火山です。しかしジャワでは、日本と同じように“山は神が住む聖なる場所”と考える信仰が古くからあり、このムラピ火山も都であるジョグジャカルタの北に位置して都を守護する神が住んでいると、古代の人々は考えていました。いや、今もそう考えている人も少なくないのです。

ジャワの古都ジョグジャカルタの北にそびえる、神が住む聖なる火山ムラピ ジャワの古都ジョグジャカルタの北にそびえる、神が住む聖なる火山ムラピ

噴火を繰り返すムラピ火山

このムラピ火山は、ジョグジャカルタ市内からは40kmほど離れたところにあるので、市内から見るとずいぶん遠くに見えますが、ひとたび噴火をすると火山灰が市内にも降り注ぐことがあります。一説によると、ボロブドゥールやプランバナン遺跡を作った中部ジャワの王朝が都を東部ジャワに移して行った理由が、ムラピ火山の噴火だというのです。確かに両寺院は降灰によって埋もれ、とくにボロブドゥールは長い間、その存在が知られていませんでした。私は2006年に起きたジャワ中部地震の直後にジョグジャカルタを訪れましたが、その時ムラピ火山の活動が活発になり、ボロブドゥールを含むかなり広い範囲に火山灰を降らしていました。その後も2010年により大きな噴火があり、この時は死者も300人以上出る被害になり、空港も閉鎖され、ボロブドゥール遺跡もしばらく一部立入り禁止となりました。

噴火は「神の怒り」

私は2006年の噴火の時に、火口まであと十kmという村まで噴火の様子を見に行ったのですが、下から見上げてもものすごい噴煙と時おり吹き上げて来る火砕流がハッキリ見えました。また暗くなると、溶岩が山の斜面を赤く下ってくるのが見えました。この時は数日前にあったジャワ中部大地震のこともあり、ジョグジャカルタの市民は、「神様が怒っている」と真剣に話していたのをよく覚えています。また、代々、この火山を守っている「山の老人」が避難せずに命を落としたということも彼らに聞きました。

ジョグジャカルタの国王は神の力を持つ

ジョグジャカルタ市内から南へ十数キロ行くと海に出ますが、そちらには今度は「海の女神」がいます。このようにジョグジャカルタは男の山の神と女の海の神に挟まれた聖なる都で、そこに代々住むスルタン(王)は、「神から力を付与された存在である」と人々は考えてきました。さすがに現代ではそれを真剣に信じる人は少ないですが、王宮に住むスルタンは、今も毎年、神に捧げる祭事を行っているのです。そしてこのように火山が噴火して被害が出ると、市民は「いまのスルタンが悪いことしているから神が怒った」と言い出したりします。このムラピ火山、噴火活動が収まっている時は、火口近くまで行くトレッキングツアーも催行されるので、興味がある人は現地発ツアーで行ってみるといいでしょう。