マラッカの街角で妻が出合った建築家。だいじょうぶ?

海外旅行は決まって妻との二人旅です。一か月くらいの長さで、僕は原稿を書きながら、画家の妻は、町中で絵を描いています。マレーシアの世界遺産の町マラッカで、妻が絵を描いていた時のこと、声をかけてきたのがリンさんという中国系マレー人の男性でした。職業は建築家。何度かメールでやりとりするうち、彼が町案内をしてくれることになったのです。ヘンな人に声を掛けられ、ヘンなところに連れていかれることもあるので、とくに女性の方は用心に越したことがありません。ただリンさんは、六十過ぎくらいで、大丈夫そうというのが妻の人物評でした。リンさんは僕たちの泊まるゲストハウスに迎えに来てくれました。乗っている車はアウディA7。超高級車です。さすが建築家。それから圧巻のマラッカ建築ツアーが始まったのです。

プラナカン建築を現代風にリノベーションした、おしゃれなマラッカの建物 プラナカン建築を現代風にリノベーションした、おしゃれなマラッカの建物

プラナカン建築とは何か?

マラッカが世界遺産に認定されたのは2008年。以来、町は急速に観光化されてきたそうです。僕は28年ぶりに訪れたこの町の変貌ぶりに驚いていました。まずは街がきれいになったこと。しかも古い建物が、昔のままの姿を残した形で使われているのです。これがプラナカン建築です。プラナカンとは、オランダや英国統治時代に移住してきた中華系民族の末裔のことを指します。独特の文化を築いたのですね。建物は奥行きが長いのが特徴です。ヨーロッパ風でありながら、中国風でもあり、インド的な鮮やか色彩もある建物です。床に使われた陶製のタイルも美しい。一階が店舗、二階が住居で、長屋形式に壁一つを隔てて建てられた家屋も多く、今も残っています。ここには100年以上前に建てられた建物など、いくらでもあります。

どんなふうにリノベーションするのか?

リンさんが最初に連れていってくれたのは、そんなプラナカン建築の建物の工事現場でした。ここがリンさんが育った家。親戚も合わせて三十人で暮らしていたので、広そうでも、狭かったと懐かしそうに話してくれました。リンさんはロンドンの大学で学んで建築家となり、帰国していくつも会社を立ち上げて成功します。その一つが、友人と共同経営している建築事務所『Idea work shop』という会社です。この会社では、昔の建物のリノベーションが主な仕事です。オランダ統治時代の壁の煉瓦を残しつつ、建物に強度を加えるために、所々に鉄製の逆凹型をした渡しを壁と梁に施します。リンさんの家はこれからゲストハウスにするそうです。それから向かったのは、マラッカ旧市街のランドマーク的建物となったジオグラフィック・カフェ。外国人旅行者のたまり場です。これもリンさんの会社が設計しています。オープンしたばかりのスペイン料理店『Tapas』もそうでした。

日本人にも人気のブティックホテルも手掛けた。

とくに素晴らしかったのは、日本人にも大人気の『コートヤード・ヒーレン・ブティックホテル』です。国内の建築賞「PAM AWARD」を受賞しています。プラナナカン建築らしく、建物内の廊下に空の見える中庭があり、空気が循環するようになっています。ベッドに天幕のある部屋もありました。お決まりの煉瓦むき出し、鉄骨剥き出しも見られます。この町の観光地としての隆盛は、リンさんのような建築家が支えているのだと、感激した次第です。