エレガントで女性的なタイの仏像

初めてタイに行った時、バンコクの名だたるお寺や、アユタヤやスコータイの仏教遺跡で仏像を見て、日本の仏像とはあまりにも顔や体つきが違うので驚きました。その印象を一言で表すなら「エレガント」あるいは「優雅」でしょうか。細面の顔に薄く見開いた切れ長の美しい目と微笑み、細腰で女性的な曲線の体。そしてタイの仏像の中でも私が一目惚れしたのが『遊行仏』です。悟りを開いた仏陀が、初めての説法に出かけるための第一歩を踏み出した瞬間を表したものですが、本当に今にもそのまま歩き出しそうな、「動き」を感じる仏像なのです。出合うたびにうっとりと見入ってしまいます。

こんなにも違う、仏教が信仰された地域によって変わる仏像の姿 こんなにも違う、仏教が信仰された地域によって変わる仏像の姿

カンボジアの人たちに伝わる『クメールの微笑み』

タイからカンボジアに入り、アンコール遺跡を見たときに思いました。「ああ、仏像はそこに住む現地の人の顔なんだ」と。ここで一目惚れした(気が多いですね。笑)のが『クメールの微笑み』と呼ばれるバイヨン寺院の観世音菩薩像でした。しっかりとしたあごのラインと丸い鼻、ぱっちりとした大きな目を見開いて厚い唇になんともいえない微笑をたたえています。優しく柔らかな微笑みだけど、同時にとても力強さと包容力を感じました。そして、しばらく村に滞在しているうちに、それはカンボジアの今を生きる人たちが持つ笑顔だと気づいたのです。

男前なガンダーラ仏に見惚れる

パキスタンのラホールにあるラホール博物館の至宝、社会の教科書に載っていた『断食する仏陀』像の、眼窩が窪み、あばらが浮き出ても座禅を続ける姿には圧倒されました。また、居並ぶガンダーラの仏像を見て、不謹慎ながら「男前だなあ」と思いました。二重まぶたの大きな目に鼻筋の通った高い鼻の端正な顔立ちと、がっしりと筋骨たくましい体つきは、「ギリシャ・ローマの影響をうかがわせる写実的な彫刻」と歴史の時間に習った気がします。しかし、ガンダーラと呼ばれた地である現在のペシャワール地方や北部の山岳エリアに行くと、こういった顔の男性がそこら中にいました。やはり「仏像の顔は現地の人の顔」なんですね。

かなり異色なチベットの仏像

ここまでは「仏像の顔は現地の人の顔」説を唱えてきましたが、チベットの仏像に関してはまったく当てはまりません。他の国の仏像にはどこか人間らしさがありますが、チベット密教の仏像は異形というか、ちょっと不気味でおどろおどろしくさえ感じます。男尊と女尊が和合した『歓喜仏』なんて、上座部仏教ではありえないでしょうね。チベット人の顔立ちは仏像とは全然似ていませんが、珊瑚やトルコ石を目一杯身につけておしゃれをする彼らの感覚は、やっぱり、チベットの仏像の持つ独特の「ゴージャス」な世界観にと同じなのかもしれません。