国旗のようだけれど、国旗とはちがう……

シンガポールを歩いていると、たまに見かける旗があります。旗といっても、赤と白のシンガポール国旗とはちがいます。シンガポールの国旗は、上半分が赤、下半分が白で、赤い部分には白抜きで三日月と五つの星が描かれていますね。例の旗にも、国旗の月と星の部分が中央にあります。ただし向きが国旗とは90度ちがっていて、横向きだった月が上向き(“上弦の月”)になります。五つの星は上向きの月の上に描かれています。国旗の一部が使われているということは、これは国旗と関係のある旗なのでしょうか?

とくにライオンのゆるキャラ的な表情が気に入りました とくにライオンのゆるキャラ的な表情が気に入りました

ライオンは国の象徴(本当は、野生のライオンはいませんが)

月と星は盾の形をしており、その盾を、左右から動物が支えています。向かって左側にいるのはライオン、右側にいるのはトラです。実は私がこの旗に魅せられたのは、ライオンとトラの描き方が、あまりにも……よくいえば素朴というか、なんとも味わい深いタッチだったからなのです。もうひとつ、目を惹かれたのは盾の下に書かれた言葉「MAJULAH SINGAPURA」でした。「マジュラ・シンガプーラ(進め、シンガポール)」といえば、シンガポール国歌です。国に関係の深そうなこの旗、一体どういう旗なのでしょうか?

パスポートの表紙にもなっている「国章」

正解は、シンガポールの「国章」でした。国章というのは国家を象徴する紋章や徽章のことです。国旗と国章の両方を持つ国は多いのですが、日本には国章がないため、日本人にはなじみが薄いかもしれませんね。国章の多くは紋章学に基づいてデザインされており、シンガポールの国章もこれにきちんと則っています。すなわち、中央の月と星が象られた赤い部分は「シールド(盾)」、盾を支える左右の動物は「サポーター」、そして盾の下の巻物状になっている箇所「スクロール」に「モットー(座右の銘)」が記される、という具合です。シンガポールのパスポートの表紙も、このデザインなんですよ。

大統領宮殿の門にも掲げられています

サポーターのライオンはシンガポールを象徴し、トラは歴史的に関係の深い隣国マレーシアを象徴しています。私は動物が好きなので、動物モチーフのものを海外で見つけるとつい見入ってしまいます。このライオンとトラのウマヘタな、いえ、味わい深い絵にはついほのぼのしました。しかし由来を調べてみると、このような背景があったのです。気高く美しい国章なんですね。シンガポールでこの国章を見つけたら、シンガポールの繁栄を願う「マジュラ・シンガプーラ!」の言葉とともに鑑賞してみてくださいね!