紙が結ぶ、不思議な縁

「紙の教会」は正式な宗教建築ではなく“ホール”なので、キリストの像や十字架などはいっさいありません。ただ、紙の柱に支えられた楕円形の建物の中に、紙でできた紫色のベンチが並べられ、赤・緑・白の三色の細い紙でできたカーテンがさがっているだけです。そのカーテン状の細い紙には、「祈願 健康 幸福」などの願い事を書いた絵馬のような紙を、紙のこよりで結びつけてありました(さてここまでで何回「紙」と書いたでしょう?)。紙の教会が贈られたここ埔里は、水に恵まれ、台湾随一の紙の産地でもあります。製紙工芸の里であり地震の被災地であるこの地に、紙の教会が贈られたというのは、偶然とはいえ不思議な縁を感じました。

台湾中部にある、日本人建築家の「紙の教会」を訪ねよう(後編) 台湾中部にある、日本人建築家の「紙の教会」を訪ねよう(後編)

園内を散策するとさまざまな発見があります

この辺りは、清水に恵まれていることにより、紙の他にも良質の酒の生産を誇り、また豊かな自然も保全されています。広い公園を歩いていると、生態系保護のための活動の様子もよくわかります。“自然”の存在を象徴するカエルのブロンズ像が園内のあちこちに置かれており、どれも祈りのポーズをとっていました。台湾は地震国です。カエルの像は、被災された方々へ祈りを捧げているのです。また、原発反対を打ち出したパネルをたくさん展示したスペースもあり、日本人アーティスト奈良美智さんによる「NO NUKES」を掲げた大きな絵もありました。

日本より主義主張をカッコよく表明している……

「紙の教会」というロマンチックな響きに惹かれ、それだけでここまで来てみましたが、思っていたより質実剛健な“たてもの”でした。東日本大震災を経てここへ訪れることができたのも、日本人のひとりとして胸に迫る体験でした。台湾も原発について意見が鋭く分かれています。台湾を旅してから日本をふりかえると、台湾のほうがずっと先鋭的でありつつスタイリッシュに原発反対を表明しているという印象を受けます。いま、なにかムーブメントを起こすには、こうした“クールでピースなムード”がカギになるのではないかと思いました。ここを訪れてみて実感しましたが、力んでいるところや泥臭い感じがぜんぜんなくて、原発反対の主張もとてもオシャレでこなれているのでした。

陽の光によって雰囲気の変わるドーム

ゆっくりと園内を見学して、また紙の教会へ戻ってくると、陽が傾いてきて、ドーム内は昼間の明るい光とはちがうやわらかい雰囲気に満たされていました。紙でできた天井は陽の光を通すので、一日のうちに何度も表情を変えるのです。三色の紙のカーテンは風が吹くとさらさらと音を立て、さらに安らかな気分になります。ともに地震国である台湾との交流が、こういう形で実を結んでいるとは、来てみるまでまったく知りませんでした。夜になるとライトアップされるので、夜の見学もさぞロマンチックなことでしょう。のんびり時間をとって、ぜひどうぞ。