下町の萬華界隈が面白い

「台北のおいしい朝ごはん」その3からの続きです。MRT板南線の龍山寺駅のそばには、台湾鉄路縦貫線の萬華駅もあり、この周辺は昔ながらの風情が残る一帯です。萬華駅前には衣服問屋が軒を連ねていますし、龍山寺界隈は宝夜になれば、華西街観光夜市が開きます。ヘビ屋、スッポン屋などいかにも精のつきそうな、そして怪しげな店や飲食店などが軒を連ねます。車も通れないような路地にあるのが新富市場。こちらは早朝から賑わっています。市場を途中で出て北に行くと、剥皮寮という、昔のレンガ造りの家々を残した歴史保存地区があります。ゴチャゴチャした一帯には活気がみなぎり、どの飲食店もおいしそうな匂いを漂わせています。ある日の朝のこと、ブラブラ歩いていたら、新富市場の角にある大衆飯屋がうまそうではないですか。おばあさんを中心に、三人で切り盛りしています。台湾らしい炒め煮のおかずがズラリと並びます。寄らないわけにはいかないですね。

大衆飯屋のおかずの数々 大衆飯屋のおかずの数々

大衆飯屋に入ってみると

店はオープンキッチンです。というか、壁がありません。日本の立ち食い蕎麦屋に似た感じで、カウンターに4席、歩道にはテーブル席が3席あります。おばあさんにおかずを指差し注文すると、小皿に盛りつけてくれます。これが「台湾小皿料理」というやつですね。おばあさんは足が悪いので、客が体を伸ばして、おかずをもらいます。僕が注文したのは、豚ばら肉の煮物、雪菜(高菜に似ている)の炒め煮、キャベツの炒め煮、厚揚げの煮物です。するとおばあさんは、「魚の唐揚げがおすすめなんだよ。食べていきな」というようなことを言っています。世界の庶民的な食堂で、こうして勧められる場合、たいてい値段が高いのが常道です。まあしかし、高いと言っても、知れているのもまた常識です。そこで魚の唐揚げも注文することにしました。ご飯はお粥がいいですね。みそ汁もありましたが、お粥なので要りません。

注文したおかずとお粥 注文したおかずとお粥

人間ドラマがおいしいおかずになるのだ

魚は白身で、ノドグロに似ており美味でした。他のおかずもやさしくて、お粥にのせてかっこみます。ほんのり甘い味付けは、「おふくろの味」そのものでした。次々にさっさと食べては立ち去って行く男たちがいました。よく見ると、みんな同じような濃紺のベストを着ています。路上にはタクシーが何台も駐車していました。このきれいとは言い難い大衆飯屋は、タクシー運転手の贔屓の店のだったのです。ほかには近所の老人たちが寄り集まっています。一人の老人が怒って席を立ち、金を払おうともしません。どうも歯の治療をしたらしく、うまく噛めないようです。だからと言って、これでは食い逃げはありませんか。隣の老人が「これ、いただきね」と先の男が残していった揚げ豆腐の煮つけを奪います。店の人たちは呆れ顔です。きっと二人とも長年の常連なのでしょう。こうした店では、毎日小さなドラマが繰り広げられ、それがまた、おいしいおかずになるのです。