タイの山の民「チャオ・カオ」の人びと

チェンマイ、チェンライなどタイ北部の町を歩いていると、ときどき華やかな民族衣装を着た人びとを見かけます。「山地民」(チャオ・カオ)とよばれる山岳少数民族の人たちで、タイ国内には大きく分けて9つのグループがあるといわれています。ラオスやベトナム、ミャンマーなど国境をまたがって住んでいて、平地に住むタイ人とは違った言語や生活文化をもっており、その美しい手仕事でも知られています。モンの人びとは、タイ国内ではカレン族に次ぐ大きなグループを形成しています。

綺麗な民族衣装のモン族 タイの山岳少数民族のくらし(前篇) 綺麗な民族衣装のモン族 タイの山岳少数民族のくらし(前篇)

字を覚えるよりも早く、刺繍を習う女の子たち

モンの女性たちは、刺繍と藍染めの名手として知られています。カラフルな刺繍をした上着に、細かい模様を描いた藍染のたっぷりしたスカートの民族衣装は、山地民の中でもとりわけ印象的です。たいへん手のこんだものですが、昔は糸を紡ぎ、布を織りあげ、ろうで模様書きした布を藍で染めるまで、すべて自給自足で仕上げたそうです。女の子たちは、6歳ごろから針を持ち始めるといいます。最初はお母さん、お姉さんの仕事ぶりを見ながら簡単な縫い物を手伝い始め、だんだんと刺繍を覚えていくそうです。伝統的なモンの社会では、刺繍が上手な女性は「根気のいる仕事も嫌がらない働き者」と考えられ、結婚相手としての評価も高かったと聞きます。現代では衣装を買うことも増えたようですが、それでも伝統の刺繍の技は伝えられて、土産物のポーチやタペストリーなどに生かされ、貴重な現金収入になっています。

モンのステッチ・ワーク

モンの刺繍は、×の模様を重ねていく、クロスステッチの技法です。色とりどりの糸を針に通し、布に刺していくさまは、まさに名人芸。モンの村で、女の人たち同士でおしゃべりをしながら、手は休めず、せっせと刺繍をしている光景を見たときには、その器用さに驚きました。モンの人びとには、文字がありませんでした。民族の歴史や、昔話といった大切な伝承は親から子にことばで伝えられましたが、刺繍やパッチワークで表現されたものもあるそうです。衣装に刺繍されるモチーフには、それぞれ意味があります。花、きゅうりの種、かたつむり、魚のうろこ、虎の眉、象の足、龍など、山の民らしく、モチーフの多くは自然のものです。くり返し登場する模様の意味を、布から読み解くのも楽しいものです。(後篇に続く)