サラワクの先住民族イバン族の暮らし

マレーシアのボルネオ島には、マレー系住民の移住前からここに暮らす先住民族がいます。「首狩り族」として知られたイバン族もそのうちのひとつ。サラワク州の人口の3分の1を占める人びとです。イバン族は、「ロングハウス」とよばれる木造の長屋に大家族が暮らし、独特な生活文化を築いてきました。キリスト教の布教や近代化の波によって、今では他地域のマレーシア人と同じように現代的な生活を営む家族が多いですが、ここサラワク州では、その伝統的な暮らしぶりを知ることができます。

ボルネオ先住民族イバンの伝統アート、絵絣の「プア」 ボルネオ先住民族イバンの伝統アート、絵絣の「プア」

ボルネオの自然が織り込まれた絵絣「ブア」

イバンの女性たちが織る布が「プア」です。ざっくりとした風合いの赤茶色を基調とした絵絣で、森の動植物や人間、精霊などがモチーフになっています。布を眺めていると、鳥や樹木などを象徴する模様が読み取れます。今では発色のよい化学染料を用いたものも見かけますが、本来は基調となる深紅色にウンクドゥ(ヤエヤマアオキ)の根を用い、赤茶色や藍色は木の葉など天然の染料を使って染めたものです。絣は、模様に合わせて糸を染め分け、染まった糸を調整しながら布に織りあげていく技法で、複数の色を使って具象的な柄を織り込むには、一枚の布に絵を描くよりも複雑な工程が必要です。驚くのは、イバンの女性たちはこの絵絣を、パターン図面などを使わずに記憶で織っていくこと。夢のお告げでデザインを決めるともいわれ、「一枚の織物に千の言葉の価値がある」と称賛する人もいるほどです。

織物が伝えるブアの伝統

プアは今でこそ土産物屋でも手に入るようになりましたが、伝統的には宗教的な儀式に用いられ、外部に持ち出されることはありませんでした。農耕儀礼や、結婚や出産など人生の通過儀礼の際に織られたもので、イバンの女性は嫁入りまでに一枚のプアを織りあげる技能を身につけておくことが求められ、手の込んだ模様を織ることができる女性は霊的な能力を授かった人物として尊敬されたといいます。プアが織られるのは、農作業の忙しくない時期です。布になるまでには、織り糸を紡ぎ、デザインに合わせて糸をくくり(くくった部分は染料に染まらない)、木の根や葉で染料をつくり、糸を染め、織る一連の作業が必要です。特に糸を染める作業は、経験豊かなリーダーの下で儀式を行い、1週間ほど泊まり込んで女性だけの共同作業を行なったそうです。男性たちが領域を守るために他部族との戦いに出かけるのに対し、「女の出陣」とよばれるほどの緊張をもって行われたといいます。

サラワクの人気みやげ「プア」

サラワクを代表する工芸品となったプアは、今では土産物店などで気軽に買うことができます。観光客向けには、ブランケットサイズより小さく、化学染料を使ったものが手軽な値段で売っていますが、昔ながらの植物染料をつかった手の込んだ柄のものは、織物や工芸品の専門店で手に入れることができます。