十字架が彫られた石ハチュカル

アルメニアの首都エレバンから北東へ約60km、セヴァン湖の畔にあるノラドゥズ村には、美しい彫刻を施した十字架石を数多く集めた墓地があります。この十字架石を「ハチュカル」といいます。十字架の石の彫刻はアルメニア正教会に行けば、どこでも必ず見ることができます。エレバンの近郊にあるゲガルド修道院にあるハチュカルも、その精緻な彫刻が実にすばらしいものです。ハチュカルは主に墓石として用いられる他に、重要な出来事を記念するときにも使用されました。

アルメニア、キリスト教の十字架が彫られた石ハチュカル アルメニア、キリスト教の十字架が彫られた石ハチュカル

さまざまなデザインのハチュカル

墓地には1000個以上はあろうかと思われるハチュカルが林立しています。石に刻まれた文様は実にすばらしいものです。あるものは精緻な文様、あるものは柔らかい線の刻印で、またあるものは非常にシンプルな十字架模様だけと、そのデザインはさまざまです。中には葬礼の儀式の様子が刻まれた石もありますが、これは権力者の墓石だったものでしょう。文様が刻まれた灰色の石に、オレンジや白い色の苔がむし、そのコンビネーションがまた美しさを際立たせています。墓地ではありますが、今では十字架石の美術館として、観光客の人気を集めています。

古い石の文化が結びついたハチュカル

ハチュカルには天災除けや病の治癒効果があるという民間信仰もあり、それがキリスト教布教以前の宗教の影響もあるのではないかと言われています。アルメニアがキリスト教が国教に定めたのが301年。世界で初めてキリスト教を公認したのです。それほど古いキリスト教の歴史がありながら、もしキリスト教以前の影響であることが事実なら、それは2000年近く前の文化がそこに残されていることになるでしょう。石には十字架ではなく、他のものが刻まれていたに違いありません。またアルメニアは紀元前9〜8世紀頃から多くの要塞や城などを石で築いてきた歴史があります。ハチュカルもその古い石の文化と結びついたものなのでしょう。