- Hiromi Okishima
- 東京在住の旅行作家。旅の情報のみならず、その国の歴史、文化、芸術、民俗なども紹介し続けている。オーストリアに関する主な著書は『ウィーン』、『ザルツブルク』以上日経BP社、『無形文化遺産・ウィーンのカフェハウス』、『皇妃エリザベートを巡る旅』以上河出書房新社など。大学やカルチャースクールの講師も務めている。
出発エリアをに変更しました。
歴史的ファサードがひときわ華やかなエーデッガー・タックス
帝室御用達の菓子店と言えばウィーンのデーメルやゲルストナーなど、フランツ・ヨーゼフ皇帝やエリザベート皇妃が贔屓にしていた老舗を思い浮かべる。皇帝夫妻のヴィラがあるバート・イシュルでは町の中でk und kのマークを掲げた店に出会う。k und kとは “kaiserlich(皇帝の) und koeniglich(国王の)” の省略で、オーストリア皇帝とハンガリー国王を兼ねていたフランツ・ヨーゼフが認めた資格だった。皇帝からk und kを与えられると帝室御用達の店となり、大きな信頼を得た。オーストリアの南の町、スロベニアとの国境に近いグラーツにも皇帝御用達の菓子店があったとは意外だ。グラーツはオーストリア第2の都市でシュタイアーマルク州の州都でもある。この町の老舗エーデッガー・タックスは1888年にフランツ・ヨーゼフ皇帝から帝室御用達の勅書を授与されている。
こぢんまりとした店内には左手奥にティーコーナーもある
グラーツの歴史は古く、6世紀頃に小さな城が建てられ、グラデツと呼ばれた。グラデツとはスラブ語で小さな城という意味である。13世紀に都市の権利を得たが、その後ハプスブルク家に支配され、14世紀から17世紀までハプスブルク家の宮廷が置かれていた。フェルディナント二世や皇位継承者フランツ・フェルディナントなどがグラーツで誕生している。宮廷都市として栄え、美しい町並みが残っているために中心部がグラーツ市歴史地区として1999年に世界遺産に登録された。グラーツは南北に走るムール川の両サイドに開けた町で、西側に中央駅があり、川を渡った東側から旧市街が始まる。市役所のある中央広場のさらに東側は大聖堂や旧王宮がある高台で、緩やかな坂道が続く。
食べてしまうのは勿体ないようなカイザーデザートは4.50ユーロ
フランツ・ヨーゼフ皇帝は1883年にグラーツへ滞在した。その時、皇帝にパンを献上したのがタックスというグラーツで一番古いパン屋だった。中央広場からシュポールガッセSporgasseを上っていくと、左側に折れる2番目の道が城へ続くホーフガッセHofgasseで、曲がると直ぐに木彫ファサードが見える。これが帝室御用達のパンとケーキの店エーデッガー・タックスだ。中央に大きな双頭の鷲が刻まれているのはハプスブルク家の紋章。最初のパン屋は、文書として残っているのは1569年創業とあるが、14世紀からパンを焼いていた。このパン屋を1787年にタックス家が買い取り、1880年に現在の場所に店を構える。戦後、タックス家の娘ヘルタと結婚したフランツ・エーデッガーが店を受け継ぎ、当主となる。以来、店名はエーデッガー・タックスになった。
シシィブッセルは箱入りで8.90ユーロ、一回り大きい箱は11.70ユーロ
現在の当主ロベルト・エーデッカーは8代目。店は正式にホーフベッケライ・エーデッガー・タックスという。ホーフは宮廷、ベッケライはパン屋だ。その名の通り毎日多くのパンを焼いているが、美味しいケーキも作っている。店の自慢はカイザーデザートというチョコレートでコーティングした丸いトルテ。どっしりと重く、リキュールが少し入った複雑な味だ。観光客が買って行くのはシシィブッセル。シシィの名で知られるエリザベート皇妃のためにタックスが考案した菓子で、元祖マカロンとされるナンシーのマカロンに似た味がする。店は1569年創業と記録されているので2019年で丁度450年目にあたる。歴史を引きずって店を守っていくのは大変そうだが、2人の息子がパンと菓子の修業をしており、9代目は安泰だ。グラーツ観光の折には是非、ここに立ち寄ってみよう。
泡立てた卵白にヘーゼルナッツパウダーとココアパウダーを加えてサクサクに焼き上げたシシィーブッセル
ホーフベケライ・エーデッガー・タックス
Hofbaekerei Edegger-Tax
住所:Hofgasse 6, A 8010 Graz
電話:+43 316 8302 300
開店時間:月曜から金曜は07:00〜18:00
土曜は07:00〜13:00
休店日:日曜と祭日は閉店
http://www.hofbaeckerei.at/home.php
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