- Hiromi Okishima
- 東京在住の旅行作家。旅の情報のみならず、その国の歴史、文化、芸術、民俗なども紹介し続けている。オーストリアに関する主な著書は『ウィーン』、『ザルツブルク』以上日経BP社、『無形文化遺産・ウィーンのカフェハウス』、『皇妃エリザベートを巡る旅』以上河出書房新社など。大学やカルチャースクールの講師も務めている。
出発エリアをに変更しました。
大きな館の西側、右半分にある8つの部屋をモーツァルト一家が借りて住んでいた
ザルツブルクで生まれたモーツァルトは、34歳という短かい人生の3分の2をザルツブルクで過ごしている。ゲトライデガッセには有名な「モーツァルトの生家」があり、連日世界中から多くのモーツァルトファンや観光客が訪れる。モーツァルト一家は4人でこの館の4階に暮らしていたのだが3室しかなく、父レオポルトは長いこと広い家を探していた。モーツァルトが17歳のとき、やっと一家はザルツァッハ川を挟んで旧市街とは反対側の新市街へ引っ越すことができた。マカルト広場に面した淡いピンク色の大きな建物で、向かい側にはミラベル宮殿の庭園入口がある。2階の広いホールでロレンツ・スペックナーという人が貴族にダンスを教えていたのでタンツマイスターハウス(Tanzmeisterhaus:ダンス教師の家)と呼ばれていた。その彼が亡くなったので家主は、家を探していたレオポルトに声を掛けた。
博物館で最初に現れるのはモーツァルトが使っていたオリジナルの鍵盤楽器
父レオポルトは1773年にタンツマイスターハウスの2階半分を借りることができた。しかし妻アンナ・マリアは1778年に亡くなり、息子のモーツァルトは1781年にウィーンへ引っ越す。姉娘のナンネルは1784年に結婚してザンクト・ギルゲンへ行ってしまい、広い家にはレオポルト一人が残った。1787年にレオポルトが亡くなってからは、色々な人がここへ住んだ。第二次世界大戦末期に空襲で館の3分の2が破壊される。その焼け残った部分を1955年に国際モーツァルテウム財団が買い取る。焼け落ちた部分には殺風景な建物が新築されたが財団は1989年にその部分も買い取る。古い部分は修復し焼けた部分は再建し、長い年月かけて全館をオリジナル通りに復元させた。1996年より「モーツァルトの住居」として公開されている。
古い油絵には左からナンネル、ヴォルフガング、アンナ・マリア(肖像画)、レオポルトが描かれている
博物館の見学はダンス教室だった広いホールから始まる。いくつかの古い鍵盤楽器などが展示されている。モーツァルトの時代のものばかりだが、その中の1つはモーツァルトが使っていたオリジナルのハンマークラヴィア(現在のピアノの前身)だ。2つ目のオリジナルはモーツァルトのヴァイオリン。大事そうにガラスケースの中に入れられている。このホールにはもう一つ、大変貴重なオリジナルがある。それは1780年に制作された「タンツマイスターザール(ダンス教師のホール)」と題された大きな絵で、このホールでピアノを囲むモーツァルト一家を描いたものだ。1780年に制作されたが既にアンナ・マリアは亡くなっていたので壁の肖像画になっている。この絵は写真などでよく目にするが、一回り小さなコピー画が「モーツァルトの生家」にある。ホールに続いて一家が使っていた小部屋が次々に現れる。
神童モーツァルトをマネージメントしたレオポルト・モーツァルトの展示室
父レオポルトや姉ナンネルに関する展示が充実している。5歳上の姉ナンネルはピアノ演奏でも作曲でも子供のころから優れていたが、弟ヴォルフガングの並外れた才能の陰に隠れて大成することはなかった。父レオポルトはヴァイオリニストでありザルツブルクの宮廷作曲家でもあった。息子の才能に気付いて早くから音楽教育を行い、神童ぶりを世間に知らせようとヨーロッパ中を旅してウォルフガングを王侯貴族の前で演奏させた。レオポルトの部屋には彼が作曲した楽譜など、功績を示す品々が展示されている。2019年はレオポルトの生誕300年にあたり、これを記念して特別展示が行われる。幼い息子のマネージャーぶりが詳しく紹介され、普段は見られないポートレートなどが公開されるので、期間中にザルツブルクを訪れることがあれば是非、モーツァルトの住居へも足を延ばそう。
「モーツァルトの住居」には充実したミュージアムショップがあり、モーツァルトに関する土産小物がたくさん見つかる
モーツァルトの住居
Mozart-Wohnhaus
住所:Makartplatz 8, 5020 Salzburg
電話:+43 662 874 227-40
開館時間:9月から6月まで9:00〜17:30、7月と8月は8:30〜19:00
入館料:11ユーロ
https://mozarteum.at/museums/mozart-wohnhaus/
レオポルト・モーツァルト生誕300年記念特別展
期間:2019年4月5日より2020年2月9日まで
※記事は掲載日時点での情報であり変更されている可能性もあります。ご了承下さい。(掲載日:2019/05/03)
※旅行前には必ず、外務省の海外安全ホームページで訪問地の安全情報についてご確認ください。
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