- Hiromi Okishima
- 東京在住の旅行作家。旅の情報のみならず、その国の歴史、文化、芸術、民俗なども紹介し続けている。オーストリアに関する主な著書は『ウィーン』、『ザルツブルク』以上日経BP社、『無形文化遺産・ウィーンのカフェハウス』、『皇妃エリザベートを巡る旅』以上河出書房新社など。大学やカルチャースクールの講師も務めている。
出発エリアをに変更しました。
昼間は明るいガラス張りの部屋も、夜は雰囲気があって高級レストランのよう
地元の人行きつけのレストランというのは間違いなく美味しい。そういう店は街の中心広場やメインストリートに面しているのではなく、裏道やちょっと判りにくい所、あるいは中心部から離れたところにあったりする。離れていても行く価値ある店が多いが、ここ、グラシス・バイスルGlacis Beisl は中心部にあって交通の便が良いという、ウィーンっ子たちに人気の店だ。場所を地図で見ると、博物館が集まるムゼウムス・クヴァルティーアの一角にあり、住所もそうなっている。しかし入口はムゼウムス・クヴァルティーアの裏側、ブライテ・ガッセBreite Gasseにある。ブライテ・ガッセは観光客が通る道ではないので、店を知らない観光客がふらっと入ってくることはない。
ウィーンの名物料理ヴィーナーシュニッツェルはレモンだけ添えられているものだが、ここではミックスサラダが付け合わせに出てくる
バイスルとはレストランのことなのだが、オーストリア特有の言い回しで、特にウィーンでバイスルが付くレストランをよく見かける。レストランに相当するドイツ語にはガストシュテッテ、ガストハウス、ガストホーフなど、“ガスト(客)をもてなすシュテッテ(場所)“として色々な言葉があるがバイスルは一般の辞書に載っていない。このバイスルBeisl、実はチェコ語のパイスルPaizlに由来しているらしい。オーストリアは16世紀からチェコを傘下に治めていたので互いの文化が行き交っていた。レストランとの違いは、直ぐに出来る料理が主で、ウィーンのバイスルには名物のヴィーナーシュニッツェル(子牛のカツレツ)やグラーシュ(ビーフシチュー)など、定番のウィーン家庭料理がメニューに並ぶ。
落ち着いた部屋を希望するなら奥のコーナーへ
それではグラシスとは何なのか。これもウィーン特有の名称で、旧市街を取り巻いていた市壁とその外側の市街地との間の平らな空間のこと。ウィーンのグラシスWiener Glacisは、市壁が造られた1529年からその解体工事が始まる1858年まで、300年以上の間存在していた。市壁が撤去されてリングという広い環状道路が建設され、その両側には過去の時代の建築様式を模倣した華麗な公共の建物が次々と出来上がった。その外側にあった平地は町のものとなり、道が敷かれたり市民の家が建てられたりで今ではどこまでがグラシスだったのか判らない。唯一、その名残を留めているのがこのレストラン、グラシス・バイスルなのだ。ムゼウムス・クヴァルティーアまでがグラシス、入口があるブライテ・ガッセはその縁だった。
豊富なワインを、仕事帰りにカウンター席で飲んで帰るビジネスマン風の人もいる
グラシス・バイスルには地元の顧客が集まってくる。入口への階段は、その先に素敵なレストランがある雰囲気ではない。しかし下り切った所から広がっているのは快適なガーデンテラスだ。建物はシンプルだが内部は意外とクラシック。入口近くに大きなカウンターテーブルがあり、庭に面したガラス張りの部屋と奥には板張りの落ち着いた部屋がある。料理はもちろんウィーン名物のヴィーナーシュニッツェルやグラーシュ、そしてターフェルシュピッツもあるが、温野菜たっぷりのポークソテーも美味しそう。ザイブリングという南オーストリアの湖で捕れる魚もお薦めだ。ワインはオーストリア産以外にもイタリア、フランス、ドイツと種類が豊富。郷土料理とワインを味わいながら、地元の人が食事を楽しんでいる和やかな様子を楽しもう。
知らなければ誰も気に留めないグラシス・バイスルの入口
グラシス・バイスル
Glacis Beisl
住所:Museumsquartier
入口はBreite Gasse 4
電話:+43 1 526 5660
営業時間:毎日11時〜23時
アクセス:U2、U3フォルクステアターVolkstheater徒歩3分
予算:グラスワイン1杯を含めて一人20ユーロほど
https://www.glacisbeisl.at/info/
※記事は掲載日時点での情報であり変更されている可能性もあります。ご了承下さい。(掲載日:2019/03/02)
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