スカートの色は女たちの心模様

エストニアのキヒヌ島。この島の民族衣装や、手芸、冠婚葬祭の儀式、歌や踊りなどがユネスコ無形文化遺産に登録されています。その代表が民族衣装のスカート「クルト」です。島の女性たちは皆、今でもこの縦縞のクルトを履いています。1人で最低20枚は持っているそうですが、一見同じに見えてもどれひとつ同じものはないそうです。赤、黄色、青、黒の微妙なグラデーションが施されていて、生まれてから結婚するまでは赤いクルトを履き、年を取ってくると青や黒などの寒色系の配色が多いクルトを履くそうです。赤は、喜びや幸せを象徴する色、また悪や病気から守ってくれる色と信じられています。家族が幸せで健やかな時には赤いものを着たくなる、しかし年を重ねるごとに悲しい出来事も経験していくと、憂いや悲しみを表す青や黒の配分が多くなります。不思議と寒色が似あうようになるというのです。葬式には青や黒のクルトを着ます。クルトの色は、島の女性の人生そのものといっても過言ではないのです。

クルトにエプロン、手づくりブラウスが島の女性たちの普段着 クルトにエプロン、手づくりブラウスが島の女性たちの普段着

結婚式の日のクルトの色の意味は?

結婚式のクルトは特別です。自分の実家を出て夫の家へ行くときは顔をレースで覆い、赤と黒が半々の色のクルトをはきます。赤はうれしさ、黒は哀しみの色。なぜ哀しみの色かというと、実家の両親と離れることは辛いこと、また嫁いだ先で困難なことも待ち受けている、という気持ちや覚悟を表しているそうです。キヒヌ島やエストニア本土のロシア国境セト地方では、こうした古い習慣が今でも残されていて、結婚式は3日間続きます。ここキヒヌ島では、結婚式の披露宴でゲストに振る舞う引き出物もお嫁さんの手づくりです。引き出物となるのは、島の工芸品でもあるミトンや靴下など。たとえば50人来るならすべての人数分を編みます。大勢の人の目に触れるので、とにかくレベルの高いものを目指すそうです。結婚式の様子を詳しく知りたいなら、島の中心部にあるキヒヌ博物館を訪ねてみましょう。クルトの種類はもちろん、結婚式に使われた緻密な刺しゅう入りブラウスや島独自のミトンの柄、「鎧のように強い」といわれ風を通さない男性用のセーター「トロイ」も展示されていて、多くの島の歴史が学べます。

キヒヌ博物館に展示されているクルト キヒヌ博物館に展示されているクルト

家事のノウハウを伝える伝承歌

島の男たちのほとんどは船乗りです。男性たちが長い間島を離れるため、女性は子供を育てながら、農作業から家畜の世話、冬の雪かきまで何でもこなしてきました。そんな厳しい暮らしの中で、毛糸を織って表裏2枚の生地で作るクルトはとても温かく、縞模様で汚れも目立たないから今も昔も重宝しています。汚れて使えなくなったら開いてカーペットにするなど、とってもエコロジカル。キヒヌ島にはもうひとつ、女性たちが守ってきた大切な無形文化遺産があります。それは家事や仕事の合間に生まれた歌です。セーターの編み方を伝える歌や、羊の上手な飼い方、食料の保存方法などが伝承歌となって今でも歌い継がれています。「息子たちが可愛く見えるようにセータを編もう。糸通しに糸をキツく通して、ゆるみがないようにしっかりね。セーターを編むには何より準備が大切だよ・・」など。キヒヌ島1日ツアーの最後に、歌いながら編み物をするおばあちゃん達の様子を見学できました。厳しい自然と折り合いながら生きる穏やかな暮らしと文化をひと目見たいと、島を訪れる旅行者が年々増え続けています。

男性用のセーター「トロイ」も有名です 男性用のセーター「トロイ」も有名です