この写真の風景はどこだろう……思い立ったときが旅立つとき

たまたま写真で目にした風景に目が釘付けになり、どうしてもそこへ行ってみたくなった経験は、誰にでもあるはず。私の場合、ある本の口絵に載っていた写真に心を奪われました。切り立つ岩山のてっぺんに建つ、ちっぽけな礼拝堂。山の斜面は、ただならぬ急角度。山というより、山全部がひとつの塔のような……この写真にまず度肝を抜かれ、その“山寺”を擁するフランス中南部のル・ピュイ=アン=ヴレという町自体にも、興味を持ったのです。リヨンからサンテティエンヌ経由で列車を乗り継ぎ、国鉄ル・ピュイ駅で降りると、そこはのんびりとした空気の流れる町でした。

フランス有数の幻想的な眺め、ル・ピュイ=アン=ヴレ フランス有数の幻想的な眺め、ル・ピュイ=アン=ヴレ

キリスト教の要所「ル・ピュイ=アン=ヴレ」とは

ル・ピュイ=アン=ヴレは、小さいけれど歴史的にも宗教上でも、フランスのみならず西欧世界の要所です。1096年の十字軍遠征のときの出発点でもあり、キリスト教三大巡礼地のひとつ「サンティアゴ・デ・コンポステラ」への巡礼路の起点にもなっているのです。静かでかわいらしい町ですが、土産物屋のショーウインドーには、聖母子像のミニチュアや絵皿など、キリスト教ゆかりのものが並んでいます。私が一目惚れしてしまった例の写真に出ていた“山寺”は、高さ82mのサン・ミシェル岩山の頂上にあるサン・ミシェル・ディギュイユ礼拝堂といいます。この礼拝堂は10世紀から12世紀にかけて建立されました。

ちょっとハードな急登だけど山頂へ行くべし!

町を歩いていると、非現実的な感覚を覚えるほど唐突に、ニョキッと岩山がそびえ立っているのが見えます。階段がついているものの、なにしろ急角度の山なので足腰にはこたえました。しかし、山頂に佇む礼拝堂の美しさを見たら、山登りの疲れなどいっぺんに吹き飛んでしまいます。さわやかな山頂(82mですが)の空気と、ついに来たという感激が胸に流れ込んできます。ロマネスク様式とイスラムの影響を感じる、一見素朴なようで当時の技巧の高さを十分に伝えている建築でした。

二つの溶岩峰のてっぺんにキリスト教のシンボルが

ル・ピュイ=アン=ヴレは火山帯にある町で、このサン・ミシェル岩山は火山が隆起した「溶岩峰」です。もう一つ、コルネイユ岩山という溶岩峰もあり、その頂上には「赤い聖母子像」と呼ばれる高さ16mの大きな像が建てられています。サン・ミシェル岩山とコルネイユ岩山、まるで地面から“生えてきた”ようにさえ見える溶岩峰。その自然の造型への畏敬の念がキリスト教の信仰心と結びついて、フランスでも無二の幻想的な景観をつくりあげているのだ、と感じました。宿泊も、パリよりはるかに安くていいホテルがたくさんあります。フランスのキリスト教の懐へ、鉄道でのんびり行ってみませんか。