- Kei Okishima
- ライター。早稲田大学第一文学部卒業。ドイツには高校時代に国際ロータリークラブ青少年交換留学でバイエルン州に一年間、大学時代に交換留学でベルリン自由大学、フンボルト大学に一年間留学する。その後ドルトムント大学にてジャーナリズム学科を専攻。現在はフリーライターとしてヨーロッパを中心に活躍中。
出発エリアをに変更しました。
一等地の中に突然現れる石碑の塊は見るものに強烈なインパクトを与える
もし銀座や新宿のオフィス街に19703平方メートルの敷地があったら、日本では一体何を作るだろう。ドイツでいうこのような一等地は、ブランデンブルグ門付近、ポツダム広場付近であるが、そんな一等地に2005年、巨大な記念碑が姿を現した。その名は「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」。そう、ドイツは絶対に忘れてはいけない過去の過ちを、あえてここに計画したのだ。ベルリンのシンボルであるブランデンブルク門のすぐ傍にあるため、観光の途中でふと立ち寄ることが出来る。
石碑は高さが微妙に異なる。気球のある位置が有名なポツダム広場
それにしても19703平方メートルというのはかなり広い。柵も門もなく、自由に入ることができるこの場所には、2711基の石碑が規則正しく並べられている。石碑には何も書かれていない。その姿はまるで虐殺された人たちの墓石が並べられているようにも感じられる。2711基という数に意味はないという。石碑と石碑の間は95cmの幅があり、車椅子でも十分に通ることが出来る。敢えてシンボル性を無くしたこの石碑だが、一日の日の当たり方によって見え方もかなり違う。日に照らされ陰になった黒い部分は石碑を浮き彫りにさせ、その姿は何故か目に焼きついて離れない。ここの地下には情報センターがありドイツでユダヤ人撲滅政策がとられていった過程、犠牲者の名前、ユダヤ人家族の運命など、迫害の数々が展示されている。
石碑が高くなるにつれて、影の黒さも強くなり、心に圧迫がかかる
この企画が提案されたのは1988年のこと。まだ東西ドイツが分裂していた頃の話だ。完成したのが2005年であるから、実に17年の歳月をかけて出来上がったことになる。この企画を呼びかけたのはジャーナリスト、リア・ロッシュであった。しかし翌年のベルリンの壁崩壊、ドイツ統一と立て続けに起こった予期せぬ事態に、計画は中断される。その後1998年にようやくコンペが開かれ、翌年には連邦議会によって記念碑の建設とその財団を設立するという基本方針が決議される。しかしこの案に対する反対意見は絶えなかった。最大の焦点はなぜユダヤ人だけに限定するのか、ということ。事実、ポーランド人やチェコ人も虐殺されているし、同性愛者や強制労働者など、戦争の犠牲になった人たちは数限りなくいる。ベルリンにはもう一つ、ユダヤ博物館という大きなプロジェクトも進行しており、それこそがユダヤ人の記念碑ではないかという声もあった。しかし他の犠牲者への記念碑はまた別の場所を考えることにし、ここをユダヤ人に限定した。こうして政治の中心であるこの地に記念碑を建てようと決めたドイツの方針に、過去の歴史にどれだけ真剣に向き合おうとしているのかという覚悟を感じずにはいられない。
記念碑を見るにあたっての注意事項。(大声で叫ばない、自転車禁止、飲酒禁止等)
ベルリンは歴史的にも常に変化を繰り返していく町であった。近年は各国から集まったアーティストによるモダンな建築物、ショッピングセンターの建設など、大都市としての機能性が要求される。だからこそ敢えて、時代に忘れ去られず流されない記憶が大切なのだと感じる。わざわざ足を運ばずとも行き着くことのできるこの記念碑は、ベルリン観光の一部として貴重な思い出を作ってくれるに違いない。
■ Denkmal fr die ermordeten Juden Europas(虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑)
住所:Cora-Berlin-Strasse 1,D10117 Berlin Germany
アクセス:ブランデンブルク門から徒歩1〜2分
電話番号:(+49)30 26 39 43 36
URL:http://www.stiftung-denkmal.de(ドイツ語、英語)
地下情報センター開館時間:4月〜9月まで10:00〜20:00,10月〜3月まで10:00〜19:00 (月曜休館)
入館料:無料
その他:地上の記念碑は年中いつでも見学することが出来る
※記事は掲載日時点での情報であり変更されている可能性もあります。ご了承下さい。(掲載日:2007/10/15)
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