- 神谷
- 東京都在住。漫然とさすらっていた学生時代の旅から、テーマのある旅へとスタイルが移りました。現在は「その国と日本とのつながり」を頭に置いて旅をしています。地を這う旅からリゾート、自然観察、文学、アート、建築を追う旅までなんでもテーマにして書きます。旅と同じくらい文章を書くのが大好き。お楽しみに!
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意外と小さな入り口
ベルリンには大小さまざまな美術館があり、その数はなんと175館以上ともいわれています。東京都は90館ほどなので、比べてみればその数の多さが分かりますね。個性豊かなベルリンの美術館の中でも、異彩を放つ美術館「ヘルムート・ニュートン写真美術館」へ行ってみませんか。場所はベルリン動物園駅のすぐ目の前という好立地ですよ。
妻のジューン・ブラウンと自分の姿を入れ込んだポートレイト
ヘルムート・ニュートンはベルリン出身の写真家です。ユダヤ系の両親のもとに生まれた彼は、18歳でナチスからの迫害を逃れてドイツを離れ、シンガポール、メルボルン、ロンドン、パリなど多くの国に拠点を移しながら写真の仕事を続けました。世界を股にかけた活躍をしてきニュートンですが、故郷のベルリンを忘れたことはなく、2003年10月には、プロイセン文化財団に自分の写真作品の多くを寄贈しました。それなのに、その後わずか3ヶ月後の2004年1月に、自動車事故で亡くなってしまうのです。
大きなプリントはとても美しい
そんな波乱に満ちた人生を送ったヘルムート・ニュートンですが、やはり美術館も、彼らしさが感じ取れる展示です。女性のヌードをテーマにした、都会的な作品が多いニュートンですから、入口からハイヒールだけを身につけたフルヌードの大きなパネルが並びます。続いて、撮影に使った手錠やロープ、ピンヒールといったフェティッシュな小物が陳列されています。それぞれの小物がどのように使われたのか分かるように、その写真も一緒に並んでいて、興味を引きます。モンテカルロの仕事部屋を再現したスペースや愛車の展示もあり、これらを見学するのも楽しいですよ。
ダリル・ハンナなど、有名な女優を好んで撮った
もちろん、写真作品はたっぷり所蔵されています。退廃美にあふれた官能的な作品は、何十年も前のものなのに少しも古くさくなく、時間が経つのも忘れて見入ってしまいますよ。それにしても、学生の頃に写真集で見ていたヘルムート・ニュートンの作品を、故地ベルリンで見ることができるなんて、当時は想像もしていませんでした。この美術館の建築は、ドイツ国防軍が使っていた建物であり、目の前にある動物園駅は、18歳のニュートンが身ひとつでナチスから逃げた、まさにその駅だったのです。因縁の磁場のようなこの場所で、美を追求した彼の懐かしい作品を見るというのは格別の体験でした。
小物の展示は写真と見比べるとおもしろい
ここはニュートンの常設展示の他、入れ替えのある特別展も行われています。特別展の方も見ましたが、実力派ぞろいで興味深い展覧会でしたよ。また、ミュージアムショップ、アートブックショップも入っていて、興味を持った写真家の写真集を買うこともできます。
モンテカルロの仕事部屋、その奥に愛車も
この写真美術館は、ただ写真を並べるだけの場所ではありません。ヘルムート・ニュートンというひとりのユダヤ系市民が生まれ、晩年になって愛する故郷で「写真」という芸術に貢献しようとしたその場所だった、ということを思い出しながら訪れてみましょう。写真作品も、窓から見える風景も、また違ったものとして目に映るかもしれません。
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