- 神谷
- 東京都在住。漫然とさすらっていた学生時代の旅から、テーマのある旅へとスタイルが移りました。現在は「その国と日本とのつながり」を頭に置いて旅をしています。地を這う旅からリゾート、自然観察、文学、アート、建築を追う旅までなんでもテーマにして書きます。旅と同じくらい文章を書くのが大好き。お楽しみに!
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新教会堂の中はとても暗い
ヨーロッパを旅行すると、普段は教会に縁のない人でも、観光地として教会を見学することが多いですよね。ところが、最初こそ装飾の豪華さに圧倒され、感激しても、だんだんとどれがどの教会だったかあやふやになってしまうことも……。その点、ベルリンの「カイザー・ヴィルヘルム記念教会」は、一度でも入ったら決して忘れることのない教会です。ここには新旧ふたつの教会堂があり、その2棟がともに個性の火花を散らすような存在となっているからです。
緻密なモザイク画にも縦横に亀裂が走る
まずは、1895年にネオ・ロマネスク様式で建てられた旧教会堂へ。ここは、第二次世界大戦時の1943年11月23日夜に、英国軍からの空襲で半壊しました。その状態を完全に修復せず、あえて痛々しい姿を晒しています。堂内の天井にあるモザイク画には無数の大きなひびが入っていますが、崩落を防ぐため隙間を埋めただけで、元どおりに塗り直すことはされないままなのです。色彩豊かで緻密なモザイク画を見上げれば、美しさにうっとりしますが、無残な亀裂によってその気分はたちまち吹き飛び、戦争の恐ろしさと愚かさが胸に迫ってくるのです。
いつまでもこの場所にとどまっていたくなるかも
さて、新教会堂の方は、外見だけではそれが教会とは思えないような、無機質な建物です。小さな四角形のガラス窓がびっしりとはまっている八角形の建物は、外から見てこれが教会だと察することは不可能。ところが、堂内には想像もつかなかったような空間が広がっています。中に入って見て言葉を失くしたのは、私だけではないでしょう。壁一面に広がる、小さな四角形にカットされたステンドグラスのブルーが、まるで海の底に降りてきたような気持ちにさせられます。
「これが本当に教会!?」
旧教会堂の卓越したモザイク画を見てきたばかりの目は、こちらの堂内にもなにか宗教のしるしを見つけようとさまよいます。けれども、ブルーのガラスはよく見ても一切具体物は描かれず、ただもやもやとした模様だけ。西洋建築の華麗な曲線を完全に排することで、磔刑に処される金色のキリスト像一点に、目が集中するのです。そのキリスト像にしても、教会建築につきもののドラマティックな装飾はなく、ジャコメッティの像のようなつかみどころのない表情で中空に浮かぶのみ。新旧の教会堂の、この対比の完璧さたるや! しかも新しいといっても、この斬新な新教会堂は1960年代の建築なんですよ。
屋根を見上げなければ、普通の教会のように見える旧教会堂
戦争の爪痕を保存し、まったく別のコンセプトの教会建築を接続させる、ドイツ人のそのインテリジェンスにはほとほと感服しました。アクセスは、クアフュルステンダム駅または動物園駅から徒歩5分ほど。特に新教会堂のほうは時間帯によって異なる光の美しさを楽しめるので、何度も見に行ってほしい教会です!
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