- 【ドイツのABガイド】 Kei Okishima
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- ライター。早稲田大学第一文学部卒業。ドイツには高校時代に国際ロータリークラブ青少年交換留学でバイエルン州に一年間、大学時代に交換留学でベルリン自由大学、フンボルト大学に一年間留学する。その後ドルトムント大学にてジャーナリズム学科を専攻。現在はフリーライターとしてヨーロッパを中心に活躍中。
ドイツ・ディンケルスビュール・歴史の現地ガイド記事
広場で繰り広げられる野外劇。スウェーデン軍司令官とディンケルスビュールの市長
毎年7月に行われる歴史祭り
祭りの多いドイツといえど、子供が主役の歴史祭りはめずらしい。祭りの名前はDie Kinderzecheディ・キンダーツェッヒェ。直訳すると“子供の飲み食い”とでもなろうか、要するに子供たちが町からもてなしを受ける祭りなのだ。毎年7月に10日間、町を舞台に市民による歴史劇とパレードが繰り広げられる。町の子供たちが様々な衣装を身につけて行進する姿は本当に可愛らしい。
小さな男の子が司令官に呼ばれる
旧教と新教の対立した30年戦争
1632年、旧教の町だったディンケルスビュールは新教のスウェーデン軍に包囲され、町は焼き払われることになった。スウェーデン軍を指揮していたのはシュペロイト大公。彼は兵士たちを従えて町に侵入してきた。そこへ小さな子供たちを引き連れた少女ローレが現れる。ローレは勇敢にも敵司令官の前に歩み出て子供たちと、どうか町を焼き払わないでください、と慈悲を請う。子供たちの必死な願いに当惑したシュペロイトは、ふとローレの脇にいた小さな男の子に目がとまる。故郷にいる同じ年頃の息子を思い出したシュペロイトは、子供たちの願いを聞き入れ、スウェーデン軍は町を焼かずに去って行った
ローレを先頭に劇に出た子供たちが町を歩く
感謝の気持ちでお祭りを
まるで作り話のようだが、どうやら本当にあったことらしい。それ以来、この時期に子供たちへ感謝の御馳走が振舞われ、1897年からこの史実を後世に伝えようと祭りの期間中に史劇が上演されるようになった。今日、劇は2部に分かれ、1部はホールの中の舞台で。2部は場所を変えて広場の野外劇となる。演じているのは全て市民たち。何年間も同じ役を務めるベテランもいれば、今年初めてという新人もいる。司令官に息子を思い出させる男の子は3〜4歳と決まっているので、だいたい毎年変わっているようだ。
この町の人たちは劇も上手だけど演奏も上手
劇出演者と子供のパレード
期間中の日曜日、劇の後で華やかなパレードが繰り広げられる。史劇よりもパレードの方が実は祭のハイライト。沿道は市民と、その何倍もの観光客で埋め尽くされる。最初に現れるのはスウェーデン軍司令官と側近たち。先ほどの熱演に拍手が起こる。そして劇に出た子供たちがやってくる。ローレに手をひかれた男の子はやはり一番人気。続いて兵士や鼓笛隊の行進が続く。戦争には食料も必要なため、家畜も連れて行った。でもパレードで大きな牛を歩かせるのはちょっと大変。劇に出ていない子供や市民たちも、中世の美しい衣装を身にまとってパレードに参加する。最後は普段着姿の子供たち。衣装を着るのは恥ずかしいけど歩くだけならいいよ、っていう感じだ。
パレードには家鴨や鶏、ヤギ、そして牛も現れる
祭りの最後はとんがり帽子をかぶって
祭りの最終日、パレードを終えた子供たちが市庁舎前に集まって来た。グッケと呼ばれる、とんがり帽子のような円錐の紙筒を一人一人が受け取る。一人の男の子に「何が入っているの?」と聞いてみた。少年はすぐ開けて見せてくれた。チョコレート、クッキー、ウエハース、グミ、キャンディーなど、子供の好きなお菓子がいっぱい詰まっている。パレードに参加したとは思えない男の子たちも並んでとんがり帽子をもらっていた。町の子供たちは誰でももてなしを受ける。これがキンダーツェヒェ。この期間、ディンケルスビュールは子供たちで溢れる。お人形のような女の子や少年たちの笑顔に出会うとき、またこの町に来たいと思う。
■ Die Kinderzeche Historischer Festzug (ディ・キンダーツェッヒェ ヒストーリッシャーフェストツーク)
住所:Dinkelsbuehl;Altrathausplatzから始まりぐるっと街を一周して最後にMarktplatzまで
URL:www.kinderzeche.de(ドイツ語、英語、フランス語)
開催期間:7月5日と22日の14時から(Kinderzeche自体は7月13日から22日まで)
ディンケルスビュールへはロマンティック街道を走るヨーロッパ・バスで。
4月1日から10月31日まで、毎日、同じ時刻に出ている。
ローテンブルクからは55分。
※記事は掲載日時点での情報であり変更されている可能性もあります。ご了承下さい。(掲載日:2007/07/20)
※渡航前に必ず現地の安全情報をご確認下さい。http://www.anzen.mofa.go.jp/
※この記事はガイドレポーターの取材によって提供された主観に基づくものであり、記事は取材時時点の情報です。
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