- 沖島博美
- 東京在住。 旅行作家。ドイツの民俗、歴史、文化などを取材し、書籍や雑誌で紹介し続けている。主な著書に『グリム童話で旅するドイツ・メルヘン街道』(ダイアモンド社)、『北ドイツ=海の街の物語』(東京書籍)、『ベルリン/ドレスデン』(日経BP),『ドイツ〜チェコ古城街道』(新潮社)、『ドイツ・クリスマスマーケット案内』(河出書房新社)など他多数。日本旅行作家協会会員。
出発エリアをに変更しました。
黒いスレート板でサービスされるチョコレートケーキ
ゲーラ川の畔に開けた古都エアフルト。ゲーラ川とは聞いたことのない川だが、テューリンゲンの森から湧き出でるウンシュトルート川の支流で、ナウムブルクでザーレに合流し、最後は大河エルベに流れ入る。13あるドイツワインの栽培地域の一つがザーレ・ウンシュトルートで丁度この辺りだ。旧市街を流れていくゲーラ川は、場所によっては子供が水遊びできるほど浅くて川幅も狭い。そのゲーラ川に架かっているのがエアフルトきっての観光名所クレーマー橋である。この橋のすぐ近くに有名なチョコレート屋さんがある。店の名はゴールド・ヘルム。黄金の兜、という意味だ。手作りチョコレートの店で、エアフルトではゴールド・ヘルムを知らぬ人はいない。老舗ではなく、創業は2005年という近年オープンの店なのに、美味しさと新しい試みですぐに有名になった。
狭い店内には可愛い箱に入った土産用のチョコレートがいっぱい。単品でも買うことができる。
ショコラティエの名前はアレキサンダー・キューン。アレックス・キューンの名で知られている。彼はヨーロッパを放浪して美味しい菓子やチョコレートを食べ歩いたのち、故郷のエアフルトに戻って自らチョコレート店を開いた。チョコレート板にピンクペッパーを大胆に乗せ、それを皿ではなく真っ白な大理石の板に乗せて店に置いた。大胆な演出と、何よりその味がたちまち評判になる。アーモンドやクルミ、マカデミアナッツとチョコレートの組み合わせは各地で見てきた。キューンはこれまでに見たことのない香辛料やフルーツとの組み合わせで新しいチョコレートを次々と生み出していった。チョコレートは、甘味だけでなく塩や胡椒系とも相性がいいのである。彼の作るチョコレートは評判になり、アレックス・キューンの名はドイツに知れ渡っていった。
飲物と小さなチョコレートを一つ頼むとこんな風に出てくる。
今日、チョコレート工房にはショップがあり、一部が小さなカフェになっている。人々は市内観光の途中で一休みすることができる。チョコレートを中心としたケーキが多いが、チーズケーキやクレームブリュレなどもあり、勿論どれもみな大変美味しい。夏場は店の前にテーブルが広がるので観光客はほとんど外に座っている。そこからクレーマー橋が間近に見えるのだ。店の後ろにはゲーラ川が流れ、川と橋に囲まれた最高の立地だ。実はアレックス・キューンの1号店はここではなくてクレーマー橋の上。今も同じ場所にあり、観光客が多い時は行列ができている。近年になって夏場にアイスクリームも販売するようになり、キューンのチョコレートをトッピングしたアイスは飛ぶように売れる。
クロイツガッセのカフェから眺めるクレーマー橋。橋の上に所狭しと木組の家が並んでいる。
クレーマー橋は、その名をクレーマーと呼ばれていた行商人に因んで付けられた。フランクフルトからロシアまで、西から東へエアフルトを経由した通商路を通っていた行商人である。クレーマーとは“つまらないもの”という意味だが、彼らが扱っていたのは主に香辛料や染料。貴重品であり、決してつまらないものではない。今日32軒の木組家屋がクレーマー橋の上に建っている。全てエアフルト市の管理下にあり、家を借りるにあたって色々な決まりがある。火を使うことは厳禁なのでレストランはない。この地方の特産品を扱う店が多く、藍染小物やザーレ・ウンシュトルートワインの専門店もある。夏場は1日に最高で5千人がこの橋をのんびり渡っていく。アレックス・キューンに言わせるなら、クレーマー橋は人々が人生を楽しむ所だそうだ。
クレーマー橋の店は橋の東端に位置し、路上にテーブルが2つ置かれている。
Goldhelm Chocolatier Alex Kuehn
ゴールド・ヘルム・アレックス・キューン
工房&カフェ
住所:Kreuzgasse 5, 99084 Erfurt
電話:0361. 644 188 0
開店時間:月曜から金曜の12:00〜18:00
クレーマー橋の店
住所:Kramerbrucke 12-14, 99084 Erfurt
開店時間:月曜から土曜は10:00〜19:00
日曜と祭日は11:00〜18:00
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