- Kei Okishima
- ライター。早稲田大学第一文学部卒業。ドイツには高校時代に国際ロータリークラブ青少年交換留学でバイエルン州に一年間、大学時代に交換留学でベルリン自由大学、フンボルト大学に一年間留学する。その後ドルトムント大学にてジャーナリズム学科を専攻。現在はフリーライターとしてヨーロッパを中心に活躍中。
出発エリアをに変更しました。
インフォメーション。作品カタログは制作過程を知ることができ、より一層作品に愛着が湧く
美術館の枠を飛び越えて自由に大地に根を張る作品たち。決して気取りすぎることなく町に溶け込んでいる。都市計画の提案、とでも言おうか。1977年から始まったこのミュンスター彫刻プロジェクトは、10年に一度ミュンスター市内を舞台に開かれる。この展示の特徴は、芸術と町との調和、関係性を課題としており、作品製作過程がとてもユニークだ。招かれたアーティストたちは制作前からこの町を十分に見学し、町を知らねばならない。その中で浮かび上がった作品を住民に説明し、批判を受け入れ改善しながら自分の作品をミュンスターの地で作り上げる。
Mike Kelleyの作品。中央の塩の柱「ロタ」は舐められながら日々変化し続ける
作品が置かれている地図は無料で配られている。地図を見ると分かるが、作品は点在しており、すべてを徒歩で回るのはかなり体力が必要だ。そこで多くの見学者は自転車を持参、もしくはレンタルしてサイクリングを楽しみながら見学しており、これはかなりお勧めだ。(駅前の「Radstation」で借りることが出来る。一日10ユーロ)
Hans-Peter Feldmannによる公衆トイレ。入り口ではビーズのシャンデリアが出迎えてくれる
それではいくつか作品を紹介しよう。まず駅を降りて徒歩5,6分の駐車場裏に設置された動物園、Mike Kelleyの作品。その佇まいは、都会の裏地にひっそり隠れて営まれるサーカスのよう。その丸いテントのような小屋に入っていくと、子ヤギ、子牛、ロバがなにやら真ん中の女性像をペロペロ舐め回している。この女性は聖書に出てくる「ロタ」である。振り向いてはならない場所で振り向いてしまい、塩の柱にされてしまったロタ。このロタもまた、本物の塩の柱で出来ている。動物たちが舐めれば舐めるほど形は変化し、彫刻が新たな彫刻として日々生まれ変わっていく。
また町の中心大聖堂前の地下にある公衆トイレはHans-Peter Feldmannによる作品。トイレの突き当たりに掲げられた巨大ポスターに描かれた鮮明な色の花。この存在によって、窓がなく狭いトイレに見事に広がりを持たせ、心理的に空間の余裕を感じさせる。そして最も美しいと感じた作品はSusan Philipszの作品。橋の両側から歌声を流し橋の下で融合するようになっている。声の重なりは、愛しい相手が反対岸にいるような錯覚をもたらす。湖の水が橋の下に反射し、その輝きは幻想的な空気を呼び起こす。
Susan Philipszの作品を聴くことが出来る橋の下。橋に反射する波模様が煌く
10年に一度の展示会、などという展示会には大抵小難しい分析を得意とする研究者や、いかにもアーティスト、という人が群がる。しかしミュンスターのこのプロジェクトには、このような独特さが見られない。かえって孫と手をつないで作品を楽しむ老夫婦の姿や、子供達が作品の傍に座って放課後を堪能している姿が目立つ。また観光客の層も幅広い。普段の風景を、アーティストの体を通した町として見せてくれるこのプロジェクト。力まず普通の散歩感覚で作品を見学していると、現実世界にちょっとした幻想のプレゼントが添えられたような気分になる。そんな10年に一度のそんなプレゼントを拾いに行ってはいかがだろうか?
■ Skulptur Projekte Muenster 07(ミュンスター彫刻プロジェクト07)
住所:作品はミュンスター市内に点在。あらかじめHPで作品マップを印刷するか、ミュンスター駅を出て左方向へ徒歩2分でつくインフォメーションセンターにて地図をもらおう。 またプロジェクトの問い合わせ先となっているドーム広場のインフォメーションセンターでも地図やカタログを購入することができる。
Domplatz 10 48143 Muenster
電話番号:(49)251 5907 201
URL:http://www.skulptur-projekte.de/(ドイツ語、英語)
※記事は掲載日時点での情報であり変更されている可能性もあります。ご了承下さい。(掲載日:2007/09/14)
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※この記事はガイドレポーターの取材によって提供された主観に基づくものであり、記事は取材時時点の情報です。
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