- 沖島博美
- 東京在住。 旅行作家。ドイツの民俗、歴史、文化などを取材し、書籍や雑誌で紹介し続けている。主な著書に『グリム童話で旅するドイツ・メルヘン街道』(ダイアモンド社)、『北ドイツ=海の街の物語』(東京書籍)、『ベルリン/ドレスデン』(日経BP),『ドイツ〜チェコ古城街道』(新潮社)、『ドイツ・クリスマスマーケット案内』(河出書房新社)など他多数。日本旅行作家協会会員。
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ウチのシュヴァルツヴェルダーは天下一品だよ、と自慢するグマイナー氏
サクランボで作るケーキはどれもチェリーケーキに違いないが、黒い森地方のチェリーケーキは、チョコレートスポンジの間にホイップクリームを挟み、リキュール漬けチェリーを入れてさらに全体にチェリー酒を振りかけている特別なケーキのこと。シュヴァルツ(黒)ヴァルト(森)地方で生まれたキルシュ(サクランボ)トルテ(ケーキ)なのである。チェリー酒のことをキルシュヴァッサーと呼ぶ。これが入っていないと本物ではない。スポンジ部分にもホイップクリーム部分にもチェリー酒が入っている。それならさぞかしお酒の味がするであろう、と想像するが、意外とそうでもない。キルシュヴァッサーはさほど強いリキュールではなく、このケーキで顔が赤くなったりすることはまずない。
チョコレートを削っているのは、森の中の落ち枝を表している
シュヴァルツヴァルトの北端にある高級保養地バーデン・バーデン。この町の老舗カフェ・ケーニヒは町で一番有名とも言えるコンディトライ(ケーキ屋)だ。現在のオーナーは4代目のフォルカー・グマイナー氏。先祖代々続いている店ではなく、20世紀初頭にツァブラーという人が始めたケーキ店だった。大二次世界大戦後にケーニヒという人がその店を買ってカフェ・ケーニヒという名前にした。店は大繁盛していたが、後継ぎがなかったため店を売る。その店を買った人は、そのままカフェ・ケーニヒの名前で受け継いだ。そしてグマイナー氏が2003年にカフェ・ケーニヒを受け継いで今日に至っている。つまり100年以上前から色々な人に受け継がれてきたカフェなのである。
イチゴをふんだんに使ったケーキがたくさんある
サクランボはドイツの至る所にあるがシュヴァルツヴァルトは特に多い。シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテはスポンジもクリーム部分も非常に柔らかいため、一人分にカットしたものを小皿に移すとき立たせることができず、寝かした状態で出てくる。これが本物のオリジナルトルテだ。美しい立ち姿をしていたら、それは作り方が本格的ではない。カフェ・ケーニヒでは直径26センチの丸いケーキを14等分にするという。どのようにカットするのだろうか。半分に切ったものを7等分するのは難しいと思うのだが、ホールケーキにはちゃんと14個のチェリーが乗っていた。カフェ・ケーニヒでは菓子パンも含めて毎日40種類を焼いている。そのほかにコンポートやチョコレートも種類が多く、ショーウィンドウは大変華やかだ。
土台部分のグリーンがルバーブ、赤はイチゴ
シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは、オランダからシュヴァルツヴァルトへ樅木を買いに通っていた木材商人と地元娘との恋がきっかけで生まれた。若い二人は結婚し、その祝いの席で初めて作られたのがこのケーキである。チョコレートはカカオを輸入していたオランダから持ち込まれた。グマイナー氏は、世界に広まった2大ケーキはザッハートルテとシュヴァルツヴェルダーだ、と言っている。ところで4月と5月の限定でラバルバーというケーキがある。後で調べたらルバーブというタデ科の植物で、菓子に使われることが多い。レモンのメレンゲがたっぷり乗っていて、それだけで立派なケーキだが、ちょっと酸味のあるルバーブの味がアクセントになって意外とおいしいトルテだった。
伝統を感じる落ち着いたカフェ・ケーニヒの内部
カフェ・ケーニヒ
Cafe Koenig
住所:Lichtentaler Str. 12、76530 Baden-Baden
Tel. 07221 - 23573
営業時間
カフェ:毎日 08:30 〜 18:30
ケーキ店:月曜から土曜は09:00〜18:30、日曜は10:30〜18:30
※記事は掲載日時点での情報であり変更されている可能性もあります。ご了承下さい。(掲載日:2017/09/12)
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