国会と最高裁判所に刑務所が併設?

ドゥカーレ宮殿は、サン・マルコ寺院と並ぶベネチアの人気の観光名所でしょう。ここはベネチア共和国のトップである総督の居城であるばかりか、元老院、評議会といった立法府、そして裁判所もあるという、今でいう三権がすべて集まった場所でした。そしてここに、牢獄も併設されていました。今でいえば裁判所や国会と同じ建物に刑務所があるようなものです。ドゥカーレ宮殿を見学していると、その牢獄も見ることができます。牢獄は宮殿の地下と1階にありました。獄内には、囚人たちが描いた“落書き”があり、いくつかは見やすいように、拡大展示されています。

ドゥカーレ宮殿と新牢獄をつなぐ「ため息橋」 ドゥカーレ宮殿と新牢獄をつなぐ「ため息橋」

唯一脱獄に成功した男、カサノバ

さて、ドゥカーレ宮殿の地下には「鉛の牢獄」と呼ばれている牢がありましたが、ここから脱獄した人がいます。それがプレイボーイの代名詞としても有名なカサノバです。“盛っている”にしても、回想録では「1000人の女性とベッドを共にした」と書いているカサノバ。しかし若い頃には、「魔術を使った」として宗教裁判にかけられ、この牢獄に5年間囚われていたことがあるのです。実際には、娘との交際に怒った貴族による濡れ衣らしかったようです。脱獄を果たしたカサノバは、サン・マルコ広場にあるカフェ・フローリアンでコーヒーを飲んで一服してから、亡命したという伝説も残っています。

「ため息橋」の名前の由来はロマンチックとほど遠い?

やがて囚人が増えてくると宮殿内の牢獄だけでは手狭になり、宮殿から小さな運河を隔てた隣の建物に「新牢獄」が増設されました。その際、外に出ないで直接行けるようにと、宮殿と新牢獄の建物の2階部分に架けられた橋が、有名な観光名所となっている「ため息橋」です。この橋の下をゴンドラが通る姿は、ベネチアを紹介する写真でよく使われていますよね。よく橋の名前の由来を「ため息が出るほど美しい橋」と勘違いする人がいますが、それはまちがい。実はイギリスの詩人バイロンが、「囚人が牢獄に入る前にこの橋から外を見て、この世に別れを告げてため息をついた」と著作に書いたことに由来しているのです。牢獄に入ると、外が見えませんからね。そんな訳で、橋の名前の由来は、まったくロマンチックではないのです。

映画『リトル・ロマンス』で有名になった愛の伝説

この「ため息橋」にはある伝説があります。それは「恋人同士がゴンドラに乗り、日没時にこの橋の下でキスをすると、永遠の愛が約束される」というもの。地元に伝わるこの伝説が有名になったのは、1979年のアメリカ映画『リトル・ロマンス』でしょう。パリで出合った少年少女がこの伝説を知り、二人で駆け落ちしてベネチアへ向かい、伝説の成就を願うというストーリーです。この映画は日本でもヒットし、テレビでもよく放映していたので、覚えている人もいるでしょう。というわけで、日没時にはここはゴンドラ渋滞になるのだとか(笑)。この橋を写真に収めるにはひとつ海寄りのバリア橋からがいいですが、ここも撮影中の観光客が絶えません。こんな「牢獄」にまつわる話も知っていると、ベネチアもまた別な楽しみ方ができますよ。