神社の大鳥居だけが厳島の魅力ではありません

広島の厳島神社に行ったら、ぜひ、弥山(みせん)登山もしてみましょう。幾種類ものコースがありますから、体力に自信のない人でもロープウェイで上がることができます。途中に一つ駅があり、乗り継ぎをすると山頂近くの終点「獅子岩駅」に着きます。ここにある獅子岩展望台で景色を見て、シカやサルに和み、そのまま下り線に乗れば、ハイヒールでも問題ありません。でもせっかくの弥山、スニーカーを履いてくれば、山頂までちょっとした山歩きを楽しめるのです。

広島・弥山(みせん)に登りながら海外旅行に思いを馳せる(前編) 広島・弥山(みせん)に登りながら海外旅行に思いを馳せる(前編)

自分の足で進めば、この風景を獲得できる!

高校生から大学生のころ、私はよく登山をしていました。“一歩ごとに風景が変わっていく”ことが、おもしろくて仕方がなかったのです。“自分の足で進んだ者だけが見ることのできる風景”というのも快感でした。山というのは、いざ分け入っていくと、ただ眺めていただけでは知りようもなかったものが次々と見えてくるものです。岩を一つ越えたら、一面に広がるお花畑。ごつごつの崖に貼り付いている、可憐な高山植物。美しい声で鳴き交わす小鳥。下界の暑さが信じられないような温度差。雪渓をそろそろ渡り、鎖場で童心に帰って鎖をつかみ、みるみる湧き上がる霧に驚き、池溏(ちとう)の点在する眼前の景色に「地球じゃないみたいだ」と呆然とする……

旅と登山の共通点

大学を卒業するころから登山をぱったりとやめてしまい、旅に出るようになりました。でもその根元は同じなのです。自分の足で進んだ者だけが知り得る場所に行ってみたいという衝動。弥山は、標高535mの低い山です。けれども高さやアプローチの困難さがそのまま山の魅力を測ることにはならないのが、山のおもしろいところ。弥山には弥山の魅力があり、距離の遠さや日数が旅の魅力と正比例するわけではない点でも、旅と登山は似ています。

そして弥山とペトラの共通点

弥山に登りながら、何度も「まるでペトラだ!」と思っていました。弥山本堂の軒に涼を求めて座り込む人々は、ヨルダン随一の観光名所ペトラのエド・ディル神殿を思い起こさせます。有名な遺跡エル・カズネを越えて灼熱の山道を歩き、急坂を登ってさらにせまい岩場を通り抜けると、眺望が突然にひらけて、エド・ディル神殿の跡に出ます。ここまでたどり着くと、人々は満足感と疲労でへたりこんでしまいます。エド・ディル遺跡を目の前にした休憩所で、ミントティーを飲みながら旅行者たちは、霊火堂(弘法大師が修行で使ったときのまま消えずに保っているという火をまつってある)を目の前にして弥山本堂でぼんやりと休んでいる登山客たちにそのまま重なりました。(後編につづく)