閉所恐怖症には辛いツアー

1978年に世界遺産第1期に選ばれたポーランドの「ヴィエリチカ岩塩坑」の見学ツアーが始まります。地下に掘られた2300室のうち見学できるのは25室のみ。英語ツアーに参加した私は、20人ほどのツーリストたちと一緒に、ガイドにしたがって木の階段を下りていきました。まずこの階段が果てしなく長い。一気に地下64メートルまで下りるのです。ここで西洋人の青年がひとり脱落しました。たぶん精神的にこの閉塞感に耐えられなかったのだと思います。このツアー、閉所恐怖症の人には辛いかもしれません。

「すごい、すご過ぎる…」と誰もが感嘆、地下100mにある塩で作られた礼拝堂(後編) 「すごい、すご過ぎる…」と誰もが感嘆、地下100mにある塩で作られた礼拝堂(後編)

塩でできた、まるでアリの巣のような地下の世界

坑道は太い木の柱で囲まれています。木が一番強度があって塩にも痛まないのだそうです。柱には塩の結晶が厚く堆積していました。ほの暗い坑内は天井も壁も床もすべて塩。天井からは塩のつららが垂れています。無数の部屋が通路でつながっていて、まさにアリの巣のようです。昔の採掘の様子が再現されているのですが、こんな地下深くに馬を運んで動力としていたことには驚きました。馬も辛かったことでしょう。天井や壁が黒くなっているのは、松明の火の煤がついたものです。今は電気のおかげで明るいけど、電気のない時代の闇はどれだけ深かったことでしょう。

坑内のハイライト「聖キンガ礼拝堂」

ここで働いていた鉱夫たちは、殺風景な坑道に様々な彫刻を施しました。もちろんこれらもすべて塩でできています。また、作業の安全を祈願するために、坑内にいくつもの礼拝堂を作りました。その中でも最大のものが地下100メートルにある「聖キンガ礼拝堂」です。キリストやマリア像、最後の晩餐など新約聖書の物語のレリーフ、そして豪華なシャンデリアに至るまで、すべてが塩でできています。この礼拝堂は現在でも日曜日のミサや結婚式などに使用されているのだそうです。「キンガ」はこの岩塩坑を発見したといわれる、ポーランドに嫁いだハンガリー王女の名前です。

昔の写真に心を揺さぶられる

ガイドの説明はわかりやすく、とても興味深いものでした。塩で作られた彫刻や礼拝堂に感心しつつ、最後にオーディオルームに通された時、壁に掛けられた古い時代の坑内や坑夫の写真が目にとまりました。私がたった今歩いてきた明るく整備された坑道ではなく、でこぼこの狭い坑道で塩を採掘している男たち…。突然ぶわっと涙が溢れました。現代では想像できない過酷な環境の中で、作業はどれだけ辛かったことだろう。暗闇の中、乏しい灯りで塩を掘り続ける毎日はどれだけ過酷だったのだろう。ほかの人が誰も気にも留めない数枚の写真が私にとっては一番リアルで、一番心に響いたのでした。世界遺産第1号のヴィエリチカ岩塩坑、訪れるだけの価値があると思います。