そのミニバスのドライバーは愛想がなかった

あれがポーランド人の気質というものなのでしょうか…。ポーランドの古都クラクフから、世界遺産のヴィエリチカ岩塩採掘場に行こうとしたミニバスの中でのお話です。挨拶をしてミニバスに乗り込み、切符をドライバーの青年から買いました。青年は今ひとつ表情が顔に出ないというか、はっきり言って愛想のない人でした。まあ、私が現在住んでいるバルセロナの、表情が顔に出やすく声と身振りの大きいスペイン人たちに比べると、ポーランド人は皆地味でおとなしい印象でしたが。

流血しながら無言で運転し続けた、ミニバスのドライバーの仕事ぶりに誰もが絶句 流血しながら無言で運転し続けた、ミニバスのドライバーの仕事ぶりに誰もが絶句

大雨が入り込むバスの天窓が割れた

ミニバスが出発してすぐに、雨が降り出しました。まるでスコールのようなざざ降りです。ミニバスは天井に喚気のための天窓がついていたのですが、そこから雨が車内に入り込んできました。その時の乗客は女性ばかりだったのですが、特に雨がかかる席の女性がドライバーに‘天窓を閉めてくれ’と頼みました。次の信号待ちの停車時に、ドライバーが天窓を閉めにやってきました。なかなか閉まらずに力を入れると、なんと天窓のガラスが大破して車内に飛び散ったのです。たぶん窓を開閉する部分が劣化していたのでしょう。

ドライバーは顔を怪我したが血だらけで運転し続けた

乗客の悲鳴が上がりましたが、それはガラスが割れたことにではなく、ドライバーの顔から血が流れていたからでした。どうやら落ちてきたガラスで鼻の付け根あたりが切れたようです。しかし、彼は「うっ」とも「痛い」とも声を発せず、そのまま運転席に戻って運転を続けました。血がけっこう出ているようで、バックミラーに映るドライバーの顔は血だらけです。完全に開いた天窓から雨が入ってきてももう乗客も無言。みんな席に座りながら傘をさしています。それはなんともシュールな光景でした。

私は彼に惚れた。

これがスペイン人なら、ドライバーも乗客も大騒ぎだろうなあなどと考えていると、後方に座っていた女性がドライバーに近づき、応急手当てを始めました。しかし、その間もドライバーは運転を続けます。鼻のあたりに大きな絆創膏のようなものを貼ってもらったドライバーは、やがてヴィエリチカ岩塩採掘場のバス停に着くと、バックミラー越しに私に視線を投げ、ここで降りろと促しました。その目ぢからにギュッと心をつかまれた私。『男は黙って任務を遂行するもんだぜ』と言っているかのようでした。ヴィエリチカよりもこの事件の方が圧倒的に心に残った一日でした。