「ゾンダーコマンド」は、ドイツ軍ではなく被収容者

「『アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所』は人類の狂気を見る世界遺産です」その3からの続きです。第一収容所で私が心に残った場所の最後は、「ガス室」でした。老人や病人、子供など、労働の役に立たないと見なされた者を殺すために使われた手段です。「清潔のためにシャワーを浴びるように」と言われて喜んだそれらの人々は、シャワーではなくチクロンBという毒ガスを浴びて即死しました。ガス室に送り込んで人々を死なせ、遺体を処理して使用後のガス室を速やかに清掃する仕事をするのは、「ゾンダーコマンド」という特殊部隊でした。さらにひどいことに、ゾンダーコマンドもまた、被収容者なのです。

ゾンダーコマンドが決死の覚悟で隠し撮りした、アウシュヴィッツの証拠写真 ゾンダーコマンドが決死の覚悟で隠し撮りした、アウシュヴィッツの証拠写真

ナチス関連映画の再現力の高さに驚嘆!

ゾンダーコマンドのひとりに焦点を当てた映画『サウルの息子』が、日本でも2016年に公開されました。この映画を見てから第一収容所のガス室を訪れると、再現力の高さに心底驚きました。ガス室の壁と床の質感は、映画の中のガス室とそっくり同じなのです。アウシュヴィッツを見学する方は、訪問前にこの映画を見ておくとよいと思います。この小さな暗い部屋に入ったとたん、自分がガスを吸って苦しむ被収容者の気持ちにも、山なす遺体を片付けるゾンダーコマンドの気持ちにもなるのです。余談ですが、『ヒトラーの贋札』『顔のないヒトラーたち』といった、ナチスのホロコーストを扱った作品も、アウシュヴィッツ関連作品としておすすめします。

実際にはもっと暗かったガス室 実際にはもっと暗かったガス室

ビルケナウではしばし呆然とたたずむ見学者たち

続いて、第二収容所ビルケナウへ。「その2」で書いたとおり、この辺りは、第一収容所よりさらにのどかな風景が広がっています。ここで誰もが目を奪われるのは、「死の門」と呼ばれる正門から、奥へと伸びてゆく引き込み線です。もちろん今は使われておらず、モニュメントとして残っているだけですが、この線路の風景は、ここへ来たすべての人の心に深く刻みつけられるに違いありません。私が訪れたのは夏の遅い午後で、そろそろ傾きかけた西日を受けた線路が、まぶしく光っていました。いつまでも立ち尽くして見ていたくなるような光景でした。(「その5」に続く)

線路は「死の門」をくぐって奥へ続いていきます 線路は「死の門」をくぐって奥へ続いていきます