復興計画にはリーダーがいました

「世界遺産『ワルシャワ歴史地区』は、瓦礫と化した街を再建した市民の努力の賜物です」前編からの続きです。旧市街をスターリン様式の街並みに作り替えることに反対し、あくまで元どおりの再建を唱えた復興計画のリーダーは、ヤン・ザフファトビッチという建築家でした。彼はワルシャワ工科大学建築学部の教授で、学生とともに、ワルシャワの街を緻密にスケッチしていたのです。戦間期(第一次世界大戦と第二次世界大戦の間)からこの作業を始め、第二次世界大戦中も、市街地を歩き回って描き続けたといいます。

シャボン玉のパフォーマンスは人気者 シャボン玉のパフォーマンスは人気者

武器ではないやり方で守ろうとしたものとは

ザフファトビッチ教授は、近い将来、ワルシャワが戦火のもとに破壊されることを予見していたのでしょう。学生たちの描いた貴重なスケッチは、教会の棺などに入れて隠されたそうです。この激しい情熱と信念には、誰でも感動することでしょう。彼らは武器の代わりに鉛筆を取り、自分たちのやり方で、街を、ひいては祖国の文化を守ろうとしました。免れようもなく破壊されるであろう美しいワルシャワを、やがて建て直すときの設計図となるように。

ところどころ壁が剥げ落ちていますが、これも忠実に復元したあと?! ところどころ壁が剥げ落ちていますが、これも忠実に復元したあと?!

第二次世界大戦だけでなく、長く続いた不幸をここで終わらせたい

ザフファトビッチ教授の指導のもと、市民も立ち上がりました。建築学部の学生や大工などの職人はもちろん、一般市民も無償で復元工事に参加したのです。荒れ果てた首都を、一般市民の手で、厳密に元どおりに作り直す。これはポーランド国民にとって、単に第二次世界大戦の爪痕を消し去ること以上の意味を持ったプロジェクトだと思います。歴史上、侵略の不幸を味わってきたポーランド国民は、もう二度と自分たちの国を他国に踏みにじられまいとする意志のもとに、このプロジェクトに参加したのでしょう。

レンガの下の方に筋がついているのは、下がオリジナル、線より上が復元部分ということです レンガの下の方に筋がついているのは、下がオリジナル、線より上が復元部分ということです

「よくぞ再建した、ありがとう」と、旅行者も言いたくなります

昔、私の知り合いでワルシャワ歴史地区を「ハリボテだ」と言った人がいます。たしかに、いかに厳密に復元したとはいえ、この街並みは映画のセットめいた“浅さ”があります。けれども、古くないから価値がないのではありません。ここの真価はほんものの古さにあるのではなく、「市民の意志」ただ一点です。平和な暮らしと再建への意志に、胸を打たれるのです。

カラフルな街並みにウエディングドレスが映えます カラフルな街並みにウエディングドレスが映えます

世界的に極めて珍しいこの世界遺産へ、是非どうぞ

また、戦争だけでなく、震災や津波といった天災によっても、人は住む場所を失います。自分が暮らす家と街がなくなる、そんな状態から、もしも“レンガのひび割れひとつに至るまで”忠実に再建されたら、どうでしょう? 失われたものは帰ってこないかもしれませんが、その心意気は、人がその街で再び生きる力となるにちがいありません。ワルシャワの復元された街並みを歩くことは、人間の悲しみ、不屈の精神、そして、自由で平和な暮らしへの希求を巡り歩くことなのです。

裏通りは表情が変わり、シックな雰囲気 裏通りは表情が変わり、シックな雰囲気