修道院にはなぜ巨大な厨房が必要だった?

リスボンの北約100kmのところにアルコバッサという小さな町があります。そこに世界遺産に登録されているアルコバッサ修道院があります。1178年に建設が始まり、1222年頃から修道士が居住し始めました。ポルトガル最古のゴシック様式といわれ、中世の建築がそのまま保存されています。修道院のファサードは18世紀に改築されたバロック様式ですが、特に美しいのは13世紀に造られた食堂と、秀麗な5つのアーチが架かった説教壇です。驚かされるのは厨房です。牛8頭が同時に焼けるという巨大なカマドがあり、大きな調理台や水汲み場が備えてあります。これほど大規模な厨房は珍しいでしょう。この修道院の最盛期には1000人もの修道士が修業していたそうなので、これほど大きなものが必要だったのでしょう。

悲恋の伝説が眠る、ポルトガルのアルコバッサ修道院 悲恋の伝説が眠る、ポルトガルのアルコバッサ修道院

王子と女官の悲恋の伝説

この修道院で最も有名のは、悲恋の伝説で知られるイネスとペドロ1世の棺です。14世紀、国王アフォンソ4世の王子ペドロはカスティーリャ王族コンスタンサ・マヌエルと結婚しましたが、コンスタンサの女官イネスに夢中になってしまいます。ところが国王は息子の不倫を嘆き、イネスを暗殺してしまうのです。これに怒ったペドロは父に対して反乱を起こしますが、やがて和解し、父の死後王位を継承してペドロ1世となります。ペドロ1世は1367年に没しますが、18世紀になってペドロとイネスの棺はこの修道院に移葬されました。死んでようやく2人はともにいられるようになったのです。

王の愛の深さがうかがい知れる美しい棺

身分の高い人の棺には、その上に死者の姿を石で彫刻して載せることが多いのですが、イネスの棺と彫刻は特に見事です。彫刻の周りには何人もの天使がいて、イネスを慰めているようです。この棺は14世紀を代表する棺彫刻の傑作といわれているそうですが、それを造らせたのはペドロ1世です。いかにイネスに対する愛が深かったのかが、この棺に現れているといえるでしょう。アルコバッサ修道院全体も、過度な装飾に陥ることなく、清廉で気品に満ちた美しい建築です。