初添乗が早くも鬼門?添乗員になりたてのAさんの深刻な悩みとは?

Aさんは、英語が多少苦手でしたが、それでも2度目の添乗員の資格試験には合格しました。添乗員派遣会社では、Aさんに初めて仕事を回します。行先はスペイン、古城を巡るツアーでした。ちょうどツアーが終わって帰国した僕は、事務所でAさんとばったり出くわし、レクチャーしてあげることに。「やっぱりあれはどうですか? 出ますか?」。Aさんの顔は脅えていました。ピンとこない僕にAさんは吐き出すように言います。「あれと言えば、幽霊に決まっているでしょう? 僕は人一倍霊感が強いんです。毎晩、古城のホテルに泊まるのはどうかなあ。なによりそのことが心配なんです」。たしかに幽霊話は、ヨーロッパツアーでは、たまに耳にする話です。石の建物のひんやり加減を、おどろおどろしく感じてしまうのは、日本人が石の建物に慣れていないせいかもしれません。

あれほどツアーコンダクターになりたかったのに、どうしてもなれなかった男の悲劇 あれほどツアーコンダクターになりたかったのに、どうしてもなれなかった男の悲劇

一度は泊まってみたい、スペインのパラドール

スペインでは、古城や修道院、貴族の館を現代風にホテルに改装、国営の「パラドール」として、大々的に宣伝しています。このパラドールは、スペイン国内90数カ所にあります。はっきり言って、みなさんの憧れのホテルです。立地がよく、場所によっては眺望にすぐれ、十分なサービスと歴史的雰囲気を味わいながら、スペインらしい上質な料理を楽しむのです。なかなか予約が取れないパラドールもあるほどで、Aさんのような人間は、たぶん少数派になるでしょう。多くの人が一度は泊まってみたいと思い、僕自身、10数カ所のパラドールに泊まりましたが、どれも十分に満足できるものばかりでした。

添乗員派遣会社社長の決断とは……?

僕がツアーから帰ってくると、あのAさんが事務所で社長と深刻そうに話をしていました。「社長! ヨーロッパ全土には、怨霊たちがさまよっています。今回のツアーで、僕はそのことを実感しました。何度も金縛りにあい、あのパラドールでは、火災報知機が鳴ったのですよ。あれは絶対に幽霊の仕業です」。「君、それはまずいよ。ホテルから抗議の電話が日本の旅行会社に届いているんだ。あれはたまたま従業員が、ほうきの柄をぶつけてしまっただけで……」。話し合いは、平行線のようでした。Aさんの霊感は、レストランや駅、空港の中でも発揮され、振り回されたお客さんからもクレームが届いていたのです。これが社長の最後の通達でした。あまり深刻になられても困りますよね。もちろん、パラドールが素晴らしいのは、言うまでもありません。