6歳の息子と旅した中東

90年代終盤に、当時6歳だった息子を連れて、ヨルダンとシリアを母子二人で自由旅行しました。シリアを気楽に旅行するなど今ではとうてい叶いませんが、それだけに、幼い息子を連れたその旅は夢のように美しい思い出ばかりです。40度を超える暑さの中、ヨルダンで精力的に観光して疲れていた私たちは、シリアではダマスカスだけにのんびり滞在していました。

幼児連れのシリア・ダマスカスでクルド人の人情に触れる 幼児連れのシリア・ダマスカスでクルド人の人情に触れる

母一人子一人の旅はいいことばかり

6歳の幼児にしては並外れた体力の持ち主だった息子でしたが、それでも初めての海外旅行が真夏の中東世界というのはハードだったようです。旅の終盤にダマスカスに着いてから回ったのは、毎日同じスーク(市場)の店、同じモスク、同じジューススタンド、そして同じ食堂と、欲張った観光はいっさいせずに、暮らすようにして日々を過ごしました。母親の私も、子供を連れていて危険が増すことは何もなく、逆に周りの人々の親切に感激することばかりでした。イスラム圏を女性が一人旅するのは男性から好奇の目を向けられて不愉快な思いをすることもあります。しかし幼児を連れていると、私のことを「女」でなく「母」としてしか見なくなるのでした。その意味では私はむしろ、息子に「守られていた」ともいえます。

毎日クルド人経営の羊料理店へ

連日かよっていた羊料理専門店は、クルド人の店でした。シリア北東部にある小さな街ハッサケから、友達同士6人で首都ダマスカスに出てきて店を開いたそうです。ハッサケはクルド人の街であり、料理を作ったり運んだりしている彼らは、たしかにアラブ系とはちがう顔立ちをしていました。民族的不幸を抱えたクルド人ですが、彼らはひたすら遠来の客である私たちにやさしく明るく接してくれました。息子がコックさんの手際に感心してカメラを持って近づいても、邪魔にもせず写真を撮らせてくれ、最終日に「明日は日本に帰るの」と言うと二人分の食事代をただにしてくれました。

おじさんの言葉に私も涙

その店で、年配のウエイターが運んできたコップの水を息子がこぼしてしまったことがありました。私もつい普段のように「ほら!お店の人に謝りなさい!」と叱りつけてしまいました。息子は小さくなり、やっとのことで「アフワン(ごめんなさい)」と言うと、おじさんは「マアレイシュ、マアレイシュ(大丈夫だよ)。」歌うように息子に声をかけてくれました。なんでもないよ、小さなことだよ。お母さんもあまりカリカリするんじゃない。坊やはちゃんといい子に育ってるよ――。おじさんの鷹揚さにあふれた「マアレイシュ」の言葉に、私はそう諭された気がしました。

親にも子にも、幼児連れの旅行はおすすめ!

幼児連れの旅行は荷物が多くなり、子供の健康と機嫌に気を配るため旅のペースが遅くなり、お金がかかります。けれども幼児連れだからこそ、こんな人情に触れる機会も倍増します。乳児ではその子の旅の記憶がなくなってしまいますが、幼児なら大人になってもけっこうその旅のことを覚えていてくれますから、「旅の友」にうってつけですよ!