- オキシマ・ヒロミ
- 東京在住。2001年にイスタンブールを訪れて以来、トルコに魅せられて取材を重ね『イスタンブールと西北トルコ』(日経BP社)を出版。2014年秋には南東アナトリア地方を徹底取材する。チグリス川とユーフラテス川上流のメソポタミア地方には聖書縁の地や古代遺跡がたくさん。人気観光国トルコの、主にまだ余り知られていない町や地域を紹介する。
出発エリアをに変更しました。
焼きあがったばかりのバクラヴァ
こんなにお菓子があったのか、と驚く。バクラヴァ(baklava)と呼ばれる焼き菓子だ。パイ生地に砕いたピスタチオとバターを豊富に入れて濃い糖蜜をかけて焼くパイである。とにかくおいしい。キューバのカストロ議長がこの店に来て以来、イマーム・チャーダシュのバクラヴァが忘れられない、と言っていたらしいが、誰もがそう思うであろう。残念ながらガズィアンテップ以外に店舗はなく、ここに来なければ食べることができない。トルコ菓子というと、やたら甘いイメージがあり甘党でも遠慮しがちだ。その概念を覆す最高の菓子である。糖蜜はかかっているが甘すぎない。口の中で自然と壊れていくサクサク感、ピスタチオの香り、良質なバターの味、どれをとっても天下一品。
クルミのバクラヴァも作り、店内で売られている
この店はどこにあるのかというと、南東アナトリア地方のガズィアンテップという町の中心部にある。創業1887年というから130年近い歴史があり、現在の店主は3代目のブルハン・チャーダシュさん。創業者は祖父のイマーム・チャーダシュ氏。若い時から菓子職人だった。バクラヴァはトルコの代表的菓子ではあるが、トルコ独自の菓子というわけではない。中東全域で食べられており、発祥の地がどこであるか定かではないが、トルコの宮廷では既に15世紀後半から作られていた。イスタンブールの高級レストランやカフェでバクラヴァを食べたことはあるが、イマーム・チャーダシュのように美味しいバクラヴァは初めてだ。これは高級フランス菓子に匹敵する、というより、個人的にはその上を行くと思っている。
見とれるほどに美しい緑色のピスタチオ
イマーム・チャーダシュでは、ずっとトルコ式バクラヴァ作りの伝統を守り続けてきた。電気オーブンが主流の今の時代、温度調節が難しい石釜で焼くことにこだわっている。薪を燃やして灰を取り除き、余熱で焼き上げる。これが、あのパリパリさの秘訣である。材料にこだわっているのは言うまでもない。特に厳選しているのは新鮮なバターだ。新芽を食べさせて育てている牛から作るバターを仕入れている。香りが良く、バターのしつこさがない。バターによってバクラヴァの味が変わるそうだ。ピスタチオはガズィアンテップ地方のものしか使わない。この地方はピスタチオの産地。綺麗な緑色のピスタチオがとれる。それを惜しみなく大量に使うことも大切だ。強力粉は小麦の宝庫と謳われるハラン産に限定。生地をどれだけ広く薄く延ばせるかが鍵になり、そのためには良質の小麦が必要だ。
こんなに薄く延ばすんだぞ、と自慢するベテラン菓子職人
透けるほど薄く延ばしたパイ生地を何枚も重ねることがポイント。パイ生地の途中にバターとピスタチオをふんだんに入れ、何枚も重ねていく。その数は10枚以上。最後に糖蜜をかけて窯に入れる。甘すぎない糖蜜の量は職人の勘によるもの。イマーム・チャーダシュのバクラヴァが数日経ってもサクサクしているのは薄い生地を重ねているからだ。こんな美味しいスイーツをいつでも食べられるガズィアンテップの人は幸せだ。宴会席への出前サービスもあるそうだ。丁度、寿司を頼むように大きな丸桶にギッシリ並んだバクラヴァが届けられる。創業者イマーム氏は「見た目はごまかせても味はごまかすことができない」と言ったそうだ。まず素材を厳選すること、そして技術を伝えていく。一度食べたら忘れられないバクラヴァはこうして受け継がれている。
ファサードがモダンなイマーム・チャーダシの入口
イマーム・チャーダシュ Imam Cagdas
住所:Eski Hal Civari, Uzum Carsi No.14, Sahinbey / Gaziantep
Tel. (0342 ) 231 2678
営業時間:7:00〜23:00
休み:年中無休
※ バクラヴァは量り売りなので大きさによって値段は様々だが、大体日本円でひとつ150〜200円ほど
※記事は掲載日時点での情報であり変更されている可能性もあります。ご了承下さい。(掲載日:2015/12/18)
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