古代の神殿を壊してパーツをリサイクル

イスタンブールの地下宮殿・前編からの続きです。この地下宮殿が完成したのが6世紀頃というのは、336本ある円柱のうち98本が5世紀に流行した様式のものだということからわかりました。その円柱は、もう“流行遅れ”で人気がなくなっていたのでしょう(笑)。この時代はまた、ローマ帝国各地で古代の神々に捧げられた神殿が壊されていた時代でした。キリスト教のみが認められて、他の宗教を信じることは“違法”となったからです。そのため、目に見えない所に造られたこの建築には、それらの建物からの石材が転用されています。そのため円柱の長さがバラバラで、高さを補うために、足元に石の台を置いているものもあります。

一番奥のほうにある「メドゥサの首」。2つあるので、両方とも見逃さないように! 一番奥のほうにある「メドゥサの首」。2つあるので、両方とも見逃さないように!

泥の中から出て来たメドゥーサ

見学通路の奥のほうに、それを示す証拠があります。円柱の下に「メデューサの首」が彫刻された石材が置かれた場所が、2カ所あるのです。メデューサはギリシャ神話に出てくる髪の毛がヘビという恐ろしい女神で、その姿を見たものは石になってしまうことから、古代では「魔除け」のシンボルとして使われていました。どこかの神殿を飾っていたこのメドゥーサの首が発見されたのは、1984年の大改修のとき。地下宮殿の底にたまった2メートルに及ぶ泥を取り除いた時に、現れたとか。メドゥーサの首の向きが、逆さになっていたり横になっていたりするのは、人に見せるために置かれたものではないためです。

いつも表面が濡れている「涙の柱」

また、地下宮殿には「涙の柱」と呼ばれている、渦巻きが流れているような浮彫りが施されている円柱もあります。この柱の表面はいつも濡れていて、それがよけいに「涙」を強調しています。これももともとどこかの神殿にあったものなのでしょう。同じ模様の柱の一部が、ベヤズィット駅近くのトラムが走る通りの路上に置かれています。

“あの映画”にも登場した地下宮殿

地下宮殿は、オスマン帝国時代に入るとほとんど忘れられていましたが、地下に大きな池があることは付近の住民には知られていたようです。16世紀半ばにイスタンブールを訪れたフランスのペトルスという人が、地下宮殿の上に住む人々が地下に穴を開けて水を汲んだり、魚を釣っていたりしたことを記しています。1963年製作のジェームズ・ボンド映画第2作目『007/ロシアより愛をこめて』の前半の舞台はイスタンブールですが、その中でこの地下宮殿も登場します。年配の方は、地下宮殿をこの映画で知った、という人も少なくないのではないでしょうか。

おすすめは地下宮殿内のカフェ

照明が抑えられ、静かな音楽が流れて落ちつくこの地下宮殿。私のおすすめは、カフェテリアの利用です。地上の観光地のカフェは人が多く落ちつかないのですが、ここは人が多くても全体的に暗く、人々の声やざわめきが空間に反響して遠くから聞こえてくるようで、妙に落ちつくのです。値段も高くないので、私は地下宮殿に来るたび、毎回ここで休むようにしています。それでは、千年以上の昔にタイムスリップできるこの空間を楽しんで来てください。