ゾクゾクするけど面白い場面も

ツアーガイドさんは、真面目そうな様子を装いつつ、たまにツアー客を脅かすようなユーモアを見せてくれます。ただでさえ陰鬱な気持ちになりがちな、暗くせまい通路をめぐるツアーでは、怖がらせるタイミングや冗談で笑わすタイミングなども重要なのでしょう。怖がりの人は、行列の最後尾にならないよう必死でガイドさんにくっついて歩いていました。大勢の人間が生き埋めになった場所ですから、霊感の強い人はたくさんの幽霊を見ることになるかもしれません。

ちょっと怖いけど面白い、エディンバラ「リアル・メアリー・キングズ・クローズ」(その3) ちょっと怖いけど面白い、エディンバラ「リアル・メアリー・キングズ・クローズ」(その3)

ツアーのしめくくりは地下での記念撮影

ガイドさんの解説だけでなく、マネキンや映像なども使って、1時間ほどのツアーを変化に富んだものに仕上げています。最後のほうでちょっとだけ豊かな地域(個室があって、なんとトイレもある)を見て、記念写真を撮ります。この写真はツアー客全員が撮られ、買い取りは自由というものです。この写真を「幽霊が写っていたら嫌」と怖がって、どうしても写りたがらない人もいるそうです。そうしてツアーがすべて終わり、光と新鮮な空気に満ちた地上(スタート地点)へ戻ってくると、自分がスタート前に見た先発ツアー客と同じように、みんな晴れ晴れとした表情になっている、というわけですね。

ツアーをリタイアする人もいます

私は特別怖がりでも閉所恐怖症でもなく、また霊感もないので、ひたすら興味深く見学することができました。しかし、やはりこういう場所に過敏な反応をしてしまうタイプの人は、地下の空気に気分が悪くなってリタイアすることもあるそうです。そのためガイドさんはツアー客の様子をよく見ています。参加者は特に「少女アニーの供養のぬいぐるみ」に感銘を受けていたようでしたが、私はそれよりも「ペスト医師」の恐ろしい姿が強く印象に残りました。

「ペスト医師」の不気味な姿

ペスト医師とは17世紀ごろから現れた、ペスト専門の医者のことで、独特の格好をしています。肌を隠すために蝋を引いた革のガウンを着て、つば広の帽子をかぶり、顔には仮面をつけています。顔をすっぽり覆うその仮面は鳥のくちばしのように鼻の部分が長く突き出しており、くちばしの中にハーブ類を詰めているのです。ハーブが瘴気から身を守ると信じられていたためです。ペストマスクをかぶった医師が診察をしているマネキンを、見学中に見ました。それは人形と思えないほど、不吉さに満ちた姿でした。

あなたはこのツアーに参加しますか?

つば広の帽子、鳥の顔のマスク、真っ黒なガウン。この出で立ちを見て「お医者さんが来た。これでもう病気が治る」と思える患者って、いたのでしょうか。どう見ても死の使いにしか見えません。この「ペスト医師」のモチーフは、土産物売り場でTシャツなどの主力商品にもなっています。それはダークなものへの恐怖と興味という、この「リアル・メアリー・キングズ・クローズ」への気持ちをそのまま象徴しているようでした。私も思わず一枚買いました。ここへ来れば、あなたもきっと、地下世界の虜になってしまうでしょう。