旅の途中で勇気づけてくれたのは…

「旅先でふと流れてきた音楽を聴いた瞬間が、感動のクライマックスになることも(前編)」からのつづきです。旅とBGMの関係について考えてきましたが「聴こえてきたのがいまハヤリの曲だからこそ、意味をもつ」、そんな場合もあります。ずいぶん前の話になりますが、マレーシアのボルネオ島を一人旅していたときのこと。夕方にやっと着いた村は、ひと気もなく寂しげなところでした。空はどんより曇っているし、まわりにひろがる薄暗いジャングルはなんだか怖い。心細い気持ちで歩いていると、どこからか当時はやっていたアメリカのヒット曲が聴こえてきたのです。

アジアの奥地で聴く、アメリカのヒットチューン

それはザ・コーリングの「Wherever you will go」でした。近寄ると、ちょうどサビの部分が流れているところ。それを聴いた私は急に安らぎを感じ、むくむくと勇気が湧いてきました。そして自分を取り戻したような気になったのです。ボルネオの奥地で聴こえてきたアメリカのヒットソング。それはまるで見知らぬ土地で見かけた、おなじみのコーヒーやハンバーガーのチェーン店のようでした。自分には秘境のように感じていたこの場所も、いまを生きる人々が暮らす普通の場所なのだ…リアルタイムで聴くヒット曲は、そんな気分にさせる効果があったのです。

ボルネオの奥地で自分を見失いそうになったとき、勇気づけてくれたのは… ボルネオの奥地で自分を見失いそうになったとき、勇気づけてくれたのは…

さっき聴いていた曲がかかる不思議

「その曲が流れてくることの意外性」が大きな感動を呼ぶこともあります。アメリカのシアトルでのこと。理由は忘れましたがそのとき私はふさぎ込んでおり、せっかく旅行に来たのにホテルにこもっていました。日本から持参したまだ聴いていないCDを初めて聴き、「1曲目はとてつもなくいい曲だ」と思ったあと、夕方やっと外に出ました。そして町をとぼとぼ歩いていると、通りがかったレストランから聴き覚えのある曲が…。「まさか、さっきの曲?」。まだうろ覚えだったので、英語の歌詞の一部分を記憶し、あとで確認してみると、やはりその曲でした。

ただのBGMが持つパワー

それはカナダのインディーズバンドの曲で、街でかかるようなメジャーなものではないのです。そのCDが出たばかりというわけでもないし、なぜあのとき聴こえてきたのか。それを考えると、おおげさかもしれませんが神様に見守られているような気持ちになったものです。それは自分にとっては、シアトルの旅のクライマックスでした。通りすがりに耳にするただのBGMにも、こんな力があるのですね。旅先で聴こえてくる音楽、みなさんにもきっとさまざまな思い出があることでしょう。そんな瞬間をこれからも期待して、耳を澄ませながら旅に出ていきましょう。