信じているからこそ伝わる“都市伝説”

ただ、そのころの都市伝説は、マスコミもさほど取り上げてはいなかったので、それを人に伝える話者の力量が大きかったと思います。基本的にはその人自身が、ネタではなく“本当にあった話”と信じていることが前提です。そして本やマスコミではなく、“人から聞いた”話であることが重要でした。聞いた人も当時はそれが真実か確認する術もなかったので、“本当の話”として、他の人に伝えていたのです。

旅行者の間で昔から伝わる“旅の都市伝説”とは? その2 「人間だるま」 旅行者の間で昔から伝わる“旅の都市伝説”とは? その2 「人間だるま」

「中国奥地の人間だるま」

さて、都市伝説には、聞いた人が忘れられなくなるような、強力なオチが必要です。これがなければ伝わりません。「オルレアンの噂」のころのオチは、その女性が中南米や中東などどこか遠くへ売られて行ったというものだったようですが、90年初頭には「中国奥地の人間だるま」という話に変形していました。私が中国を旅行していたころは、旅人はその話をみんな知っていたほどです。これも「知り合いのお兄さんが」のように、旅人が直接知らない人が登場します。ある人が中国の奥地をひとり旅していて、偶然見世物小屋に入ります。いろいろなものを見ますが、たいていインチキか大したことがなく、ガッカリして出ようとすると、最後の部屋に両手両足がない女性がいます。そしてその女性と目が合うと、女性は日本語で「助けて!」と叫ぶのです。しかし男は怖くなって外に飛びだします。

オチのパターンと別の都市伝説とのつながり

その後には、いろいろな細かいバリエーションがあります。多いのはその女性が「住所と名前を告げた」ので、帰国後確かめてみると、本当にその人物が行方不明になっていたことを知る、というものです。そしてもともとは別の話だったのが、前述の「試着室で消えた女性」の話とつながり、そのオチとして話されるようになりました。それでは夫自身が見世物小屋で変わり果てた妻を発見するというオチもあります。この噂の出所は、その話が中国に限定されるところから、中国の歴史に出てくる刑罰や、1985年に日本で公開された中国映画の『西大后』のシーンから派生したのかもしれません。

旅の都市伝説が語り継がれる背景

ネット時代の今では、こうした話はさんざん検証されているので、「都市伝説」だと知ることができますが、それでもいまだに話されることもあるようです。そうした背景には、「やはり外国だから何が起きるかわからない」という旅人の不安感があります。この2つの話は有名ですが、当時はほかにも「インド限定」「パキスタン限定」のように、具体的な地名を盛込んだ噂話も数多くありました。機会があれば、また書いてみることもあるでしょう。とにかく語り継がれている噂話は、旅人が怖れていることをうまくまとめたから、「都市伝説」として広まったのでしょうね。