アトラス山脈が分かつモロッコの表情

モロッコは、アトラス山脈によって、大西洋側と南東のサハラ砂漠側とに分けられます。大西洋側には緑豊かで肥沃な平野が広がり、鉄道が敷かれ、カサブランカやマラケシュなどの大きな都市はこちら側に集中しています。しかし、アトラス山脈を越えると風景は一変。乾いた茶色い山々と砂漠が広がる荒漠とした風景の中、川沿いのオアシスに日干し煉瓦で造られた家々が並ぶ村が、ぽつぽつと現れます。マラケシュの華やいだ喧騒が別世界のような、厳しい、秘境感漂う風景が広がります。

桃源郷の奥にある、アトラス山脈の裂け目 〜トドラ渓谷〜 桃源郷の奥にある、アトラス山脈の裂け目 〜トドラ渓谷〜

カスバ街道の北にある絶景の渓谷

このアトラス山脈の南東に広がる砂漠地方の、ワルザザードからサハラ砂漠の入り口エルラシディアまでを結ぶ道「カスバ街道」には、「カスバ」と呼ばれる昔の城塞が点在しています。カスバのふもとには緑のオアシスが広がり、日干し煉瓦の家々が太陽の強い日差しに濃い影を作っています。カスバ街道のちょうど真ん中に位置するティネリールの町から、北に15kmほど上っていくと、前方にアトラスの山が迫ってきます。道はやがて、カスバ街道随一の見どころ「トドラ渓谷」へと入っていきます。

太陽の光も届かない深い谷

トドラ渓谷は、アトラス山脈の南麓を流れるトドラ川によって深く深く刻み込まれた、“アトラスの裂け目”です。渓谷に入っていくと、道は切り立った断崖絶壁に挟み込まれ、今にも崩れ落ちてきそうな赤茶色の岩壁が道の両側に迫ります。道幅が10mほどの、谷で最も狭いところでは、強烈な日差しも地上まで届きません。深い谷の底から上空を見上げると、真っ青な空がはるか遠くに見えます。アトラスの冷たい雪解け水が流れるトドラ川の川辺では、地元の人たちも避暑のピクニックを楽しんでいます。

春には桃源郷のような風景が見られるオアシスの村

トドラ渓谷の迫力のある絶景も見ごたえがありますが、ティネリールから渓谷までの風景がまたいいんです。カスバやオアシスの小さな村々が続き、中でもアーモンドや桃の花が一面に咲き誇る春の季節は、まるで桃源郷のような美しさです。なんと渓谷の手前の村には日本人が経営している宿もあって、多くの旅人たちがここに投宿しながら、渓谷までのハイキングや、オアシスの村での滞在を楽しんでいます。サハラ砂漠の旅の後に、桃源郷のオアシスでほっと一息つくのもいいかもしれませんね。