岩を切り出して移築された神殿

凄い遺跡が目白押しのエジプトにあって、遺跡観光のハイライトといえば、やはり「ギザのピラミッドとスフィンクス」、そして「アブシンベル神殿」ではないでしょうか。1960年代、アスワン・ハイ・ダムの建設計画でダムの底に沈むことになったアブシンベル神殿を守るため、ユネスコによって国際的な救済活動が行われました。そして、神殿を正確に切り分けて約60km離れたところに移動、切り分けた岩を組み立てて、寸分たがわぬ姿で神殿がよみがえったのです。この工事がきっかけとなって、自然や歴史的建造物を保護する世界遺産が創設されました。

世界遺産はここから始まった!! ダムの底に沈むはずだったエジプトのアブシンベル神殿 世界遺産はここから始まった!! ダムの底に沈むはずだったエジプトのアブシンベル神殿

とうとうファラオと対峙する時が来た!

この有名なエピソードを知り、『いつかこの目でアブシンベルの継ぎ目を見てみたい』という夢を持ち続けていた私。夢が叶ったのは8年前のことでした。カイロからのアスワン経由の飛行機がアブシンベルに向けて高度を下げていくとき、朝日を浴びてオレンジ色に染まった神殿が眼下に見えました。『ついに来たぞーー!!』と昂る気持ちを抑え、空港からの送迎バスで遺跡に向かい、小走りで神殿に向かいます。神殿を移築するために人工的に造られた丘を回り込むと、目の前に巨大なファラオ像が現れました。『お、大きい…』。想像以上に大きな、神殿の入り口に掘られた4体のラムセス2世像が、朝日に輝いていました。

遺跡にひとり佇んで、ファラオの時代に思いを馳せる

一人旅で誰も聞いてくれないのに、「うわー、これは凄い!!」とつい声が出てしまいます。同じ飛行機でやってきた観光客でにぎわう間、離れたところから外観をずっと眺めていました。他の観光客は、数時間滞在した後、すぐにまたアスワンに空路戻っていきます。遺跡に一人きりになってから、ようやく神殿の中に入りました。暗さに目が慣れると、今度は壁に掘られたラムセス2世のレリーフが、淡くライトアップされて浮き上がってきます。3000年以上前の建造物とは思えないほどの、レリーフや彫像の完璧な美しさに見入っていたのは、いったいどれくらいの時間だったでしょう。

ファラオもすごいが、現代の人間もすごい!

それにしても、入り口には巨大な4体の像、内部のレリーフもすべて自分の戦のときの場面で、ラムセス2世はどれだけ自分が好きだったんだと半ば呆れるほど。それだけ誇示できるほどの権力を持っていたということなのでしょうね。移築時の継ぎ目は、意識して探してようやくあの線かなーと思えるほど、ほとんど目立たないものでした。内部の緻密なレリーフも傷つけることなく、これだけ巨大な岩の塊を切って運んでつなぎ合わせた先人の努力にも感動しました。半日以上遺跡に滞在し、すべてに満足して、エジプト人で満員の乗り合いバスで、真っ赤な夕日を見ながら次の目的地アスワンに向かったのでした。